豊昇龍が北青鵬を攻略した叔父・朝青龍譲りの「まわし切り」
「把瑠都の腕が見えて、もぐってやろうと思った」
すぐ思い出したのは2009年春場所9日目、朝青龍が198センチの把瑠都を料理した一番だ。右で抱え込まれ、窮屈な体勢になったが止まらず揺さぶる。それから左下手を離して相手の右脇に頭をこじ入れると反り返って右上手を切ったのだ。そこからは前まわしを引き付けて寄り切った。
「待つ相撲は良くないから、攻めて攻めて。相手の腕が見えて、もぐってやろうと思ったんだ。把瑠都は時間がたつたびに重くなるからな」
喜色満面の顔を見て、問題の多い横綱だが、相撲が好きなのだなと思ったものだ。豊昇龍はくしくも同じ技で、長身の新鋭を攻略した。
翌13日目には霧馬山が、棒立ちにさせないよう正対を避けつつ外掛けで倒している。3人の関脇が番付の差を見せつけた3日間。終盤5連敗で終えた北青鵬は「2桁勝ちたかった。まわしが取れないと相撲にならない。勉強です」と話した。
豊昇龍は11勝で場所を終え、春場所と合わせて21勝とした。審判部は22勝の大栄翔、21勝の若元春とともに名古屋場所は大関昇進が懸かるとの認識を示している。
豊昇龍にとっては、毎度引き合いに出される叔父さんよりも、先を越された霧馬山の方が眼前の目標だろう。千秋楽はその相手を豪快につり上げ、土俵にはわせた。「勝てて終われてよかった。自分も頑張らないと」。すぐに追いつく決意表明のような気迫だった。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ) 1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。