下積み時代のポール牧さんの無断居候を「知ってたよ」…黙認していた元横綱栃錦の懐の広さ
マムシが今の時代にいたなら…
あの頃の親方たちが、あれはできない、これも言えない今の時代にいたなら、何に目を光らせ、何に目をつぶり、どんな指導をしただろうか。柱の陰で大部屋をそっと見ていたマムシ(栃錦の異名)の目を想像する。
問題力士は巧妙に親方の目を盗んで悪事をはたらく。仕返しをちらつかせ被害者も口が堅くなる。多くの部屋持ち経験者は「一つ屋根の下にいるからって、全部分かるものじゃない」という。
規則が厳しくなるほど悪質な力士は陰湿になり、親方が厳しく叱れないことも見すかす。それを見て見ぬふりなどすれば、つけ上がり、被害が大きくなる。苦労してスカウトした弟子を簡単に「一発退場」にはできないだろうが、指導を間違えれば他の真面目な弟子が相撲協会の指示で他の親方の弟子になってしまう。
師匠たちが、交友関係や後援者によって人の育て方などを学ぶ機会も減っている。八角理事長(元横綱北勝海)は協会による「師匠の指導」を重要課題に挙げて研修などを行ってきたが、宮城野部屋の問題は、協会が課題を遂行できていないことも示した。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。