本の森
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「すばらしい人体」山本健人著
およそ180年ほど前、世界で初めての実用的な写真撮影法、ダゲレオタイプが発明された。 それ以前の写真術に比べて画期的なものだったが、それでも露光に5~10分もかかり、撮影される人はその間、じ…
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「時間の解体新書」田中さをり著
20世紀初頭、イギリスの哲学者ジョン・マクタガートは「時間の非実在性」という論文で、時間が実在しないことを論証した。時間が実在しないとは、一体どういうことなのか? 緻密な議論を乱暴にまとめると、時間…
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「文明開化に抵抗した男 佐田介石 1818―1882」春名徹著
佐田介石という名前を初めて知ったのは40年近く前、松山巖の「土足と代用品」という文章(後に「まぼろしのインテリア」に収録)でだった。明治の文明開化期に天動説を唱え、ランプが各家庭に入ると16の大害が…
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「清少納言を求めて、フィンランドから京都へ」ミア・カンキマキ著 末延弘子訳
著者はフィンランドのヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ大学で比較文学を専攻し、大手出版社の広告編集者として勤めていた。入社後10年余を経た頃、決まり切った毎日の生活に飽き、つまらなくて死にそうになる。この…
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「海獣学者、クジラを解剖する。」田島木綿子著
海獣とは海の哺乳類のことで、クジラ類(クジラ、イルカ、シャチ)、海牛類(ジュゴン、マナティ)、鰭脚類(アシカ、オットセイ、アザラシ、セイウチ)の3つのグループに大別される。海で暮らしているため調査自…
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「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」川内有緒著
目の「見えない」人と一緒にアートを「見る」。形容矛盾めいたタイトルだが、本書を読み進めていくうちに、これを矛盾と思ってしまうのは、先入見にとらわれた大いなる錯誤であることがわかってくる。 白…
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「妻と娘の唐宋時代」大澤正昭著
日本で女性史というジャンルが歴史学の中にきちんと位置づけられるようになったのはそれほど古いことではない。1970年代ごろから徐々に女性史関係の著作が現れ、80年代にはフェミニズムと、90年代にはジェ…
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「カイメン すてきなスカスカ」椿玲未著
カイメン=海綿は、文字通り綿のようにフワフワしてスカスカ。身近なものとしては切手や印紙を濡らす事務用スポンジがある。それ以外にカイメンのイメージというと正直思い浮かばない。そもそもカイメンって、植物…
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「文体の舵をとれ」アーシュラ・K・ル=グウィン著 大久保ゆう訳
ル=グウィンといえば、ジブリ・アニメにもなったファンタジーの傑作「ゲド戦記」シリーズや両性具有の世界を描いたSF「闇の左手」などの作家として有名だ。 本書はル=グウィンが作家志望の生徒を相手…
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「哲学の女王たち」レベッカ・バクストン、リサ・ホワイティング編 向井和美訳
帯に「プラトン、デカルト、カント、サルトル……では、女性哲学者の名前を言えますか?」とある。パッと思い浮かぶのはルクセンブルク、ヴェイユ、ボーヴォワール、アーレント、ソンタグといったところか。だが、…
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「酔っぱらいが変えた世界史」ブノワ・フランクバルム著 神田順子ほか訳
緊急事態宣言が解けて、東京などでも制限付きではあるが、外でお酒が飲めるようになった。この1年半ほど、街はちょっとした禁酒法状態のような感じだったが、実際に禁酒法が施行された1920年代のアメリカと同…
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「林達夫 編集の精神」落合勝人著
林達夫というと、戦前戦後を通じて己の精神の自由を守りとおした稀有(けう)な知識人として知られる。また驚くほどの寡作というイメージも強い。「たまたま試写室で……林達夫をみかけたりすると、映画などイヌに…
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「謎ときサリンジャー」竹内康浩、朴舜起著
本書の副題は、「『自殺』したのは誰なのか」。この「誰」とは、サリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」の最後、拳銃で自らの頭を撃ち抜いてしまう若い男のこと。すでにその作品を読んだことのある人…
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「ルート66を聴く」朝日順子著
60歳以上の人なら、かつて「ルート66」というアメリカのテレビドラマがあったことを覚えているだろう。トッド(マーティン・ミルナー)とバズ(ジョージ・マハリス)の2人の青年が、シボレー・コルベットを駆…
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「スターリン」オレーク・V・フレヴニューク著 石井規衛訳
本書の副題は「独裁者の新たなる伝記」。チャプリンは「独裁者」で風船の地球儀と戯れる独裁者=ヒトラーの姿を辛辣に描いたが、もしスターリンを主人公にしたらどのような場面を描いたのだろうか。 ヒト…
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「鷹将軍と鶴の味噌汁」菅豊著
エジプトのナイル川を南下していくと川沿いに円筒形の細長い塔があちこちにあるのが目に付く。これは食用の鳩を飼育するためのもので、レストランでも鳩料理がよく供される。フランス料理でもジビエとして鳩や鴨、…
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「耳のなかの魚」デイヴィッド・ベロス著 松田憲次郎訳
ジョルジュ・ペレックは実験的な作品で知られるフランスの小説家だが、「煙滅」という作品はフランス語で最も使用頻度の高いeの文字を一切用いずに書かれたもの。eなしに小説を書くのはいかに困難か想像に難くな…
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「食べものから学ぶ世界史」平賀緑著
先頃、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が産業革命前と比べた世界の気温上昇が、これまでの予測より10年早く2021~40年に1・5度に達すると予測、人間活動の温暖化への影響は「疑う余地が…
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「数の発明」ケイレブ・エヴェレット著 屋代通子訳
認知症のテストに、自分の年齢を言ったり、100から順に7を引いていくものがあるが、このテストには「数」という概念が既知であるとの前提が必要だ。しかし、著者が幼少期を過ごしたアマゾンには数を持たない先…
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「チャイニーズ・タイプライター」トーマス・S・マラニー著 比護遥訳
今回の東京オリンピックの開会式では、国・地域名の50音順で入場行進が行われた。前回の1964年のオリンピックではアルファベット順だったが、本書の序には2008年の北京オリンピックでは前代未聞の漢字の…