「物価とは何か」渡辺努著

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 ロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰などもあり、新年度に入ってから日用品や食料品の値上げが相次いでいる。近年の日本はデフレ傾向にあり、このところの消費者物価指数は1%前後を推移していたが、パンデミック下で給与の上昇が見込めない現在、今回の物価の上昇は家計に大きな負担を強いると予想されている。日常的に使う「物価」という言葉だが、改めて「物価とは何か」と問われると、答えに窮してしまう。

 この問いに、著者は「物価とは蚊柱である」と答える。世の中に何十万と存在する個別の商品それぞれが一匹一匹の蚊で、猛烈な速度で移動する個体もあれば、ゆっくりと移動する個体もある。そうした商品の群れを少し距離を取って眺めると、蚊柱のような群れ全体が見えてくる。この蚊柱のような群れが物価だ、と。蚊柱内部に多少の動きがあっても、全体として1カ所にとどまっていれば物価は安定している。全体の動きが上下左右に急速度に移動していればインフレやデフレである。

 では、そもそも物価とは何の値段なのか。またそれはどのように決められていくのか。詳細については本書を読んでもらいたいが、たとえばかつて「狂乱物価」と呼ばれた大幅な物価高騰があった。これは石油ショックによる原油高騰が原因とされたが、現在ではこの因果関係が否定され、真の原因は日銀による貨幣の供給過剰とされている。

 しかしそれも既に50年も前のこと。現在の日本の若い世代はインフレを知らないという世界でも珍しい部類に属している。そうした値上げに対する免疫のない社会では企業もなかなか値上げに踏み切れず、実質的な容量減のステルス値上げや次々に新機種・新機能を施した新商品による価格更新といった戦略をとって、表面的な値上げを回避しているという。

 平易な内容ではないが、値上げの季節を迎え、良き頭の体操となる書。 <狸>

(講談社 2145円)

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