「あの図書館の彼女たち」ジャネット・スケスリン・チャールズ著 髙山祥子訳
パリのアメリカ図書館は、第1次世界大戦中にアメリカの図書館から戦地の兵士たちに送られた多数の本を基に創設された図書館で、英語の書籍や定期刊行物を提供する、アメリカ文化の情報発信基地だ。1920年創設で、40~44年のナチス占領下においても閉館をせず、利用を禁じられたユダヤ人利用者たちに本を届けるという秘密のサービスを実施していた。本書はこの事実に基づき、図書館を愛するひとりの女性を主人公にした物語である。
第1章は1939年2月のパリ。オディールは本好きのおばの影響で、幼い頃から図書館が大好きで身の回りのものを図書分類のデューイ十進分類法の数字に変換するほど。女が外で働くことを嫌う厳格な父の反対を押し切り、アメリカ図書館に就職することに。
第2章、舞台は一転して1983年米国のモンタナ州フロイド。7年生のリリーは、好奇心旺盛で外の世界に憧れていた。隣に住んでいるミセス・グスタフソンは「戦争花嫁」と呼ばれ、周囲とはほとんど付き合わず、戦後フランスからやって来て、もう40年近く住んでいるのに常によそから来た女性と思われている。
そんな隣人にリリーは興味津々。ある日、夫人の家を訪れ話を聞くことに。以後、過去のパリと現在のモンタナを往還しながら、オディール=グスタフソンの波乱の生涯が徐々に明らかになっていく──。
自由の窓口であった図書館がナチスによって自由を奪われていくが、リーダー館長をはじめ館員たちは皆、本の力を信じ、本という新鮮な空気で希望を持ち続けようと、図書館にとどまり違法なユダヤ人利用者へのサービスを続行していく。
しかし、ナチスの暴虐は館員たちの絆を引き裂き、互いの関係に亀裂を生じさせていく。オディールが負った深いキズを若いリリーはどう受け止めていくのか……。
単なる過去の物語に終わらせることなく、現在を生きる読者に重い問題を投げかける秀作。 <狸>
(東京創元社 2420円)