「ゾウが教えてくれたこと」入江尚子著
野生のアフリカゾウは100年前の1000万頭から現在の35万頭と、97%も激減、このままでは近い将来野生のアフリカゾウは絶滅する危機に陥っている。激減の理由の一因は象牙獲得のための密猟で、1980年代には象牙の7割を日本が消費していた。現在でも日本は世界一の象牙の販売国だ。こうした流れを食い止めるにはまずゾウがどういう動物であるかを知ることで、本書はうってつけの一冊。
ゾウの第1の特徴は、体が大きいこと。現生ゾウは、アジアゾウ、サバンナゾウ、マルミミゾウの3種。このうちサバンナゾウのオスは体高5メートル、体重5トン近くにもなる。食べる量も1日100キロ近くと桁外れ。となれば排泄物も大きく、1個あたり1キロのものを1日80個ひねりだす。食べた分の半分ほどは消化されないので、糞には繊維質がたっぷりで、それを使った「ゾウさんうんちペーパー」も作られ、幼稚園などで好評だという。耳が大きいのもゾウの特徴だが、大きな耳の裏には太い血管が走り、パタパタさせることで体温を下げているのだ。
そして、なんといってもあの長い鼻。大きな頭を支えるためには太い首が必要で、そうすると頭部の動きが制限されてしまう。その動きを補うのが長い鼻なのだ。象の鼻はヒトの手と共通点が多く、利き手ならぬ利き鼻(物を巻き取る左右の方向)があるそうだ。鼻は、ゾウの知能進化の要でもあり、鼻=脳仮説もあるという。
その他、家族や仲間の死を悼む共感力、優れた記憶力、自己認識とものまねする能力、さらには数と量の認知と低周波音による遠く離れた仲間とのコミュニケーションなど、その驚異的な能力が紹介されている。とはいえ、「驚異的」というのは人間側からの言葉で、ゾウにしてみれば長い年月をかけて自然に進化させてきた能力である。それを人間の勝手で滅ぼしてしまうのは傲岸不遜のそしりを免れない。 <狸>
(化学同人 1650円)