「街の牧師 祈りといのち」 沼田和也著
「宗教年鑑 令和3(2021)年版」によると「キリスト教系」に分類される宗教団体の総信者数は191万余人で、全宗教団体の総信者数に占める割合は1.06%。思いのほか少ないが、カトリック、プロテスタントなど合わせて7000以上の教会があり、キリスト教の聖職者(神父・牧師ら)が地域に密着した活動をしており、人々の心の支えになっている。
著者は、日本基督教団所属の牧師。大学の神学部を卒業後、牧師の資格を得て、牧師と付属の幼稚園の理事長・園長を兼務していたが、過酷な職務と園長としての責任の重圧とから同僚へ怒りを爆発させ、そのまま牧師館に引きこもってしまう。
その後、妻の説得により精神科病院の閉鎖病棟へ入院。そのへんの経緯は前著「牧師、閉鎖病棟に入る。」に詳しい。本書には、その後、東京の小さな教会で再び牧師となり、「崩壊後の再建途上にある」著者が回復を模索する中で出会った同じように傷ついた人たちと何を語り、何を思ったかが飾りなく語られる。
夜行バスを待っている著者に「ねえ、ラブホいかへん?」と誘いかけてきた少女は、相手が牧師だとわかると、幼い頃に教会で経験した思い出を懐かしそうに語る。しかし、その後適切な対応をすることができずに逃げられてしまう。40歳を過ぎたひきこもりの息子を心配して福祉課に相談するも、30歳以上は対象外だとして途方に暮れる70代の母親に対して、民生委員につながり続けてみなさいとしか言えない己の無力さ。しかし、福祉にも限界があり、隙間や落とし穴がある。その隙間や落とし穴に落ち込んでいる人たちこそ、教会に救いを求めに来るはずではないか? だが、最低限の社会性すら奪われてしまった人には、教会はまぶしすぎるのだ。
自分の弱さ、駄目さに真摯に向き合いながら、弱く、小さな者たちの声を伝える真っすぐな語り口が、心を揺さぶる。 <狸>
(晶文社 1870円)