松竹解任騒動 奥山和由を奮い立たせた深作欣二からの手紙
一瞬の出会いや憧れが、その後の人生を決定づけてしまうことがある。4万人を集めた京都国際映画祭の総合プロデューサー、奥山和由氏(59)にとっては故・深作欣二監督(享年72)だ。大学浪人中の40年前、京都撮影所に時はさかのぼる。
「なんやワレ」って、スタッフらしき人に広島弁で凄まれながら、こちらの素性を書いた手紙を半ば強引に手渡したんです。「監督に届けてください。どうしてもお会いしたいんです」って。
映画に興味があったとか、いうわけじゃありません。ただこの頃、週刊朝日のグラビア特集で「仁義なき戦い」の撮影に臨む深作監督を見て、菅原文太さんらに演出をつけるヤクザのような、型破りな姿に目がくぎづけになり、「もうやってられん」と最後、大の字に寝転ぶ写真から、とてつもない自由を感じたんです。
アポなしで、撮影中に会ってくれも何もないんですが、何度も通っていると、「よかったら、また京都に来ないか」って電話が鳴ったんです。深作監督からでした。喜び勇んで駆けつけると、お酒をごちそうしてくださり、改革、革命、既成概念の突破の必要などといった、高校を出たての若造の話に笑顔で耳を傾けてくれました。そして「君を見ていると思い出すよ」と、ウイスキーのコースターに書いてくれたのが、フランスの哲学者ポール・ニザンの言葉。「人間は完全に自由でない限り、夜ごと夢を見続けるだろう」というものでした。