<第13回>迫真の演技だったビートたけしの“シャブ中”
【夜叉(1985年・東宝)】
高倉健扮する主人公はかつて大阪のミナミで「人斬り夜叉」と呼ばれたやくざ。堅気になって、若狭湾に面した小さな港町で漁師として働いていた。そこへミナミから水商売の女、蛍子(田中裕子)が流れてきて、居酒屋を開く。しばらくは平和なままだったのだが、女のヒモ(ビートたけし)が現れ、漁師たちに覚醒剤を売るようになってから港町にさざ波が立つ。最後は蛍子、ヒモのために主人公はミナミに乗り込み、刃を振るう。
ビートたけし、田中裕子の芝居は迫真という表現がぴったりだ。特に、覚醒剤中毒になったたけしが包丁を持って田中裕子を追い回すシーンは、ニュースフィルムを見ているような錯覚に陥る。役者でなく、本物のシャブ中を連れてきて、出演させているのではないかと思ってしまう。
その他にも大滝秀治、田中邦衛、小林稔侍、いしだあゆみと高倉健映画の常連陣が脇に回る。ぜいたくなキャスティングの娯楽映画だ。いい映画なのだけれど、高倉健が背中に夜叉の入れ墨を背負っているために、テレビでは恐らく放映されないだろう。