「焼肉ドラゴン」鄭義信監督は崔洋一作品の脚本が転機に
「月は――」は梁石日さんの自伝的小説「タクシー狂躁曲」が原作で、脚本はすごく早く書き上がりました。だけど、崔監督も制作会社の李鳳宇も僕も、なんとなく違和感があった。
原作では在日韓国人のホステスが出てくるんだけど、なぜかそれがピンとこない。だから、映画の方向性も定まらなくて毎日「どうしようか」って悩みました。そんな時に知り合いから、「大阪のフィリピンパブのホステスは関西弁でしゃべっとるで」って聞いたんです。それを崔監督に話したら「それ面白い。じゃあ、主人公の女性はフィリピン人にしようや」ってなった。
その日からフィリピンパブやタクシー会社に取材に行きました。その中で、道に迷ったドライバーから会社に問い合わせがあった場合、「月はどっちに出ていますか」って尋ねると聞いて、それが題名になりました。この脚本は50回以上書き直した記憶があります。
それから、崔監督とは、やはり梁さん原作の「血と骨」(04年)でも組むんですが、これは脚本を書き上げるまでに5年くらいかかりました。その間一度、製作自体がなくなりそうになったんです。でも、再度、企画が持ち上がってビートたけしさんが主演するとなって、あれよ、あれよという間に話が盛り上がって、実現できました。