女優・劇作家 渡辺えりが危うい現代社会への警鐘を鳴らす
テレビ、映画、CMなどマルチに活躍する女優の渡辺えり(63)。主宰するおふぃす3○○が、6月7~17日、下北沢・本多劇場で新作「肉の海」を上演する。これは、前身である「劇団3○○」の創立40周年を記念するもの。80年代から小劇場演劇を牽引してきた彼女の演劇の集大成ともいうべき作品で、「格差社会」や「ナショナリズムの台頭」への警鐘を込めた舞台になるという。
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今回の作品は作家の上田岳弘さんの原作「塔と重力」をモチーフにしています。原作があるのは尾崎翠の「第七官界彷徨」を基にした「オールドリフレイン」以来です。
上田岳弘さんが三島賞を受賞した「私の恋人」と3年前の還暦特別公演で20年ぶりに上演した「ガーデン」のシーンが似ていたので、あるインタビュー記事でそのことに言及したら、上田さんがそれを読んでくださって。私の芝居を見に来てくれたり、交流が始まりました。彼は38歳、私より二回り下ですが、読んできた本や感性が似通っているんです。
物語は震災でガレキの下になり、意識が戻らないまま死んだ初恋の人のことを、20年後に突然思い出し、涙が止まらなくなるなど、感情が制御できなくなる青年が主人公。それを見かねた友人が彼に次々と女性を紹介し……。これ以上言うとネタバレになるのでやめますが、一人の少女の死に対し何もできなかった男の贖罪の物語でもあります。
テーマは「命の重さ」。原発震災から7年、今も復興が進まないのに、まるで「なかったこと」のように東京五輪だなんだと浮かれている。戦争もそう。わずか73年前のことなのに、自国の負の歴史を修正したい人たちが他国の脅威を煽って、新たな火種をつくろうとしている。
SNSなどコミュニケーションツールが発達するのと反比例するように、人間の感情や意思が細切れにされている。そんな人間不在のぶよぶよした近未来の不気味な姿が「肉の海」というタイトルに込められています。原作からはテーマと設定をいただいて8割は私の創作です。