梅枝&児太郎 阿古屋で名乗り出た“歌舞伎座の立女形”の道

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 玉三郎は阿古屋を演じない日は、岩永という赤面の役を人形ぶりで演じる。玉三郎が出る日は松緑が演じている役で、玉三郎にとって初役。何の予備知識もなく見たら、玉三郎とは分からないだろう。見たこともない玉三郎なのだ。だから阿古屋で出ない日も、玉三郎ファンなら見逃せない。

 阿古屋は劇中で、琴、三味線、胡弓を演奏しなければならず難役とされ、戦後、大歌舞伎でこの役を演じたのは、中村歌右衛門と玉三郎しかいない。つまり、この役を演じられる役者が、歌舞伎座の立女形の有資格者なのだ。梅枝と児太郎が、名乗りを上げたことを称えたい。2人はこれから何十年も続く立女形への道を競い合う、そのスタート地点に立った。その意味で歴史玉三郎に残る公演だ。

 話題の小説、吉田修一著「国宝」(朝日新聞出版)は歌舞伎界を舞台としたもので、阿古屋をめぐる物語でもある。この本と今月の歌舞伎座は、偶然にも虚実のメディアミックスとなっている。読んでから見てもいいし、見てから読むのでもいい。読めば面白さが倍増する。

(作家・中川右介)

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