著者のコラム一覧
SALLiA歌手、音楽家、仏像オタク二スト、ライター

歌って作って踊るスタイルで話題を呼び、「イデア」でUSEN 1位を獲得。2018年より仏像オタクニストの活動を始め、初著「生きるのが苦しいなら」は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。近著に「アラサー女子、悟りのススメ。」(オークラ出版)がある。

「チェンソーマン」がアニメ化 ダーク漫画はなぜウケる

公開日: 更新日:

 少年漫画の枠を越えた過激な描写でアニメ化は無理とまで言われていた人気漫画「チェンソーマン」(原作:藤本タツキ)のテレビアニメ化が決定した。オンエア時期の詳細などが現時点では明らかにされていないが、昨年アニメ化されて話題となった「鬼滅の刃」「呪術廻戦」や、実写映画化された「約束のネバーランド」同様、アニメ化をきっかけにさらに話題となるであろうことが予想される。これらの作品に共通するのは「ダークな世界観」を描いていることだ。

 いずれも作品の中で「死」を取り扱い、「鬼」「悪魔」「呪霊」などを登場させ、描写もグロくて過激。なぜ、最近話題となる作品は”ダークな世界観“を取り入れたものが目立つのだろう。その流れと系譜を辿ってみたい。

■流れを作った「進撃の巨人」

 閉塞感、猟奇的、絶望感…。それらをベースに構築した物語が”流行“という形で目につくようになったのは2009年より連載を開始した「進撃の巨人」が登場してからだったように感じる。

 もちろんそれまでも、ダークな世界観を描いた作品はあったが、あんなに鮮烈で、一歩間違えばトラウマになるような作品に多くの人が熱中したケースはあまりなかった。人間の姿をした巨人が人間を食べる。そんなシンプルな設定だからこそ、シンプルに怖く、それが「進撃の巨人」のセンセーショナルさを生み出していた。

 その後、同じように話題となりアニメ化、実写化された作品に11年より連載の「テラフォーマーズ」という作品がある。火星に放たれたゴキブリが進化し、それを駆除するために特殊な手術を施された人間が戦うというSF漫画だが、どちらにも共通するのは、それ以上逃げ場がないという状態で、敵種族を駆逐しなければ自分たちは生き延びることが困難であるという究極な条件下であるということだ。

 私たちの世界と同じように、作中に登場する人間はどんなに訓練を積んでいても、特殊な能力を手に入れても、非力な人間であることには変わりなく、登場する人たちは当たり前のように死んでいく。我々が住む世界と同じような絶望感や閉塞感が、漫画にも存在する。

 対極ではなく、延長線上にあると感じることで、より没入でき、そして「自分だったらどうするか?」と考えさせる力のある作品が、最近は特に読者を惹きつけるのだろう。

主人公の痛みに共感することで得られるカタルシス

 そしてここ最近話題となる作品の主人公は、必ず”理不尽さ“に対峙しているということだ。

 「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎は妹を鬼にされ、家族を殺された。「進撃の巨人」のエレンも自由を奪われているだけでなく、母を目の前で巨人に食べられた。「約ネバ」のエマらも、鬼の食糧にされるために育てられている。

 そんなどうしようもない理不尽さに対峙し、時には憎しみ、傷つき、正しくあろうとするがなれない愚かさも含めて、私たち読者はどうしようもなく”共感“してしまう。

 理不尽さを通して何かを得ようとする時、必ず人の醜い本質の部分と向き合わなくてはならない。それが漫画という作品を通して、人間の持つ闇の部分を描くに至らせる理由であり、支持を集める理由になっているかもしれないし、主人公の痛みに共感することで得られる”カタルシス“もあるのだろう。

 社会の構造自体に”理不尽さ“を感じてしまう現代だから、それに立ち向かう主人公たちの姿に自分の感情を重ね、時には己に問いかける。ダークファンタジー漫画は、この理不尽な社会の”自浄作用“を担っているからこそ、根強い需要があるのかもしれない。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  4. 4

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  5. 5

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  1. 6

    フジ反町理氏ハラスメントが永田町に飛び火!取締役退任も政治家の事務所回るツラの皮と魂胆

  2. 7

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  3. 8

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  4. 9

    やなせたかしさん遺産を巡るナゾと驚きの金銭感覚…今田美桜主演のNHK朝ドラ「あんぱん」で注目

  5. 10

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が