「青天を衝け」“渋沢栄一劇場”を10倍楽しむオモテとウラ

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青天を衝け(NHK総合/2月14日スタート・毎週日曜、午後8時~)

「日本資本主義の父」と言われ、2024年発行予定の新1万円札の「顔」にもなる渋沢栄一(1840年~1931年)の波乱の生涯を描いた今年の大河ドラマも、第11話まで放送を終え、ようやく「明治維新劇場」の主要な役者が出そろった感がある。

 そこで、これからの大河ドラマを10倍楽しむために、幕末から明治にかけての栄一に関係する歴史を簡単に「予習」しておきたい。

 幕末の武蔵国榛沢郡血洗島村(現在の埼玉県深谷市)の名主・渋沢家に生まれた栄一(吉沢亮・27)は、文久元(1861年)に21歳で江戸に出て、尊皇攘夷派の志士となった。文久3(1863)年に従兄の尾高惇忠(田辺誠一・52)らとともに「この北武蔵から攘夷を決行する」と宣言。高崎城(現在の群馬県高崎市)を襲撃して武器を奪って横浜の外国人居留地を焼き討ちし、長州と連携して幕府を倒すという計画を立てた。しかし、惇忠の弟で剣の達人・尾高長七郎(満島真之介・31)に説得されて思い止まった。

 栄一は自叙伝「雨夜譚(あまよがたり)」で、この一件を「自分らの決心はすこぶる無謀であった。長七郎が自分ら大勢の命を救ってくれた」と振り返っている。これが4月25日放送の第11話「横濱焼き討ち計画」で描かれた栄一の人生最大の危機であり、一大転機だった。実際、このとき長七郎が止めていなければ栄一は犬死にし、明治維新以降の日本は今とは大きく違っていただろう。

 ちなみに、この時、栄一と一緒に命拾いした惇忠は、世界遺産・富岡製糸場(群馬県富岡市)の初代場長となった。その後、栄一は従兄の尾高喜作(高良健吾・33)とともに京に上り、公武合体実現のために京にいた薩摩藩士・西郷隆盛(博多華丸・51)と薩摩名物の豚鍋を突きながら意気投合した。

 しかし、頼りの長州が会津藩と薩摩藩が結託して起こした8月18日の政変と京から追放されたため、志士としての活動は行き詰まる。

■慶喜との関係

 そんな時、江戸で知遇を得た一橋家家臣・平岡円四郎(堤真一・56)の推挙により、朝議参与として京都にいた一橋慶喜(草彅剛・46)に召し抱えられる。このエピソードの一部は、2月14日放送の第1話「栄一、目覚める」の冒頭で、馬上の慶喜に土下座して訴えるシーンとして描かれた。

 大老・井伊直弼(岸谷五朗・56)から謹慎処分を受けた慶喜は、井伊が暗殺された桜田門外の変の後の万延元(1860)年9月に謹慎を解かれ、文久2(1862)年には14代将軍・徳川家茂(磯村勇斗・28)の後見職となり、政の表舞台に復帰していた。

 そして、慶応2(1866)年には慶喜自身が15代将軍となったため、かつて倒幕を志した栄一が幕臣となってしまった。歴史の皮肉と言えば皮肉、ラッキーと言えばラッキーだ。

 翌慶応3(1867)年、パリで行われた万国博覧会に名代として赴いた慶喜の異母弟・徳川昭武(板垣李光人・19)の随員として渡仏し、そのまま欧州各国を歴訪した。このときに西欧列強諸国の先進的な産業や金融制度などを目の当たりにした。その知見を生かし、明治政府入りした後、政府の一大目標である「富国強兵」を推進する政策の一つとして産業を盛んにする「殖産興業」をリードすることになる。

3人の妾、妻妾同居も…

 余談だが、このドラマで女優・橋本愛(25)が演じる栄一の1歳年下の最初の妻・千代は2男3女をもうけた後、明治15(1882)年にコレラにかかり、現在の北区飛鳥山にあった自宅で死亡した。42歳だった。

 栄一には知られているだけでも3人の妾がいた。その1人である大内くには、何と神保町にあった当時の栄一の自宅で千代の許しを得て「妻妾同居」した。栄一の2人目の妻・兼子との間に生まれた四男・秀雄はその著書「父 渋沢栄一」で、「社会的な活動は則天去私に近かったろうが、品行の点では青少年の尊敬を裏切るものがあった」と嘆いている。

 妾のほかにも芸者や住み込みの女中などにも次々と手を出し、庶子や隠し子が一説には約50人もいたと言われる。「英雄、色を好む」というが、NHK大河ドラマの主人公としては少々、「不都合な真実」かもしれない。

▽高橋恵市(フリーライター)山口県出身。大学卒業後、出版社勤務を経てライターに。グルメ紹介や企業広報、テレビ番組批評など幅広く手がける。ペンネームで小説も出版している。

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