著者のコラム一覧
二田一比古ジャーナリスト

福岡県出身。大学卒業後、「微笑」(祥伝社)の記者に。その後、「Emma」「週刊文春」(ともに文芸春秋)をはじめ、多くの週刊誌、スポーツ新聞で芸能分野を中心に幅広く取材、執筆を続ける。フリー転身後はコメンテーターとしても活躍。

伝説の“赤塚不二夫の仕事場”は昔のままなのだ! 娘・りえ子さん「父の等身大の位牌をネオンで作りました」

公開日: 更新日:

 2008年に亡くなった漫画家・赤塚不二夫さん(享年72)の数々の作品と、伝説を生んだ中落合(東京都新宿区)の事務所兼自宅。来年の解体を前に「フジオプロ旧社屋をこわすのだ!!展“ねぇ、何しに来たの?”」なる展覧会が開催中。赤塚さんと親交の厚かったジャーナリストの二田一比古氏が懐かしい現場をリポート!

 ◇  ◇  ◇

 閑静な住宅街にたたずむ3階建てのビル。2階の窓に逆立ちしたバカボンパパのフィギュアがお出迎えするスタイルは昔と変わらない。まずは1階へ。アシスタントの仕事場だった部屋の壁に飾られてあったのは数々のアート作品。イラストレーター・黒田征太郎から俳優の浅野忠信まで20人近い著名な方と赤塚作品のコラボ。癒やし系から、迫力に圧倒される作品まで個性あふれる作品が並ぶ。個々に付けられたタイトルも「アカツカさん」とシンプルなものから、「夜は寝るべし」「いったい何故がどうーしたのだ」と実にユニーク。迎えてくれた赤塚さんの一人娘・りえ子さんに「ねぇ、どうして壊すの?」と聞いてみた。

「築40年を超えた建物は老朽化して、修理もすでに限界でした。なにより耐震性の問題が大きかった。2年前に解体を決意しましたが、いざ壊すとなると迷って。父の思い出が詰まった家ですから。父もファンも喜ぶお別れの仕方を考えた時、家ごと展覧会にすることが浮かびました。赤塚を好きだった人たちも賛同して協力してくれたことが後押しになり、前に進むことができました」

 構想2年、少しずつ準備を始め、スタッフらと取り組んだ作業日数は1カ月かかったという。

「連日、朝から夜中まで飾りつけに追われました。眞知子さん(赤塚さんの妻でりえ子さんの継母)が大事に保管していた大量の写真から選ぶ時点でみんな大爆笑。とても楽しく作業できました」と振り返る。

 靴を脱いで2階に上がる階段の壁には、赤塚さんを中心にしたさまざまな写真が並ぶ。

たばこの焦げ跡も菊千代の通帳もそのまま

 2階は赤塚さんがこよなく愛した日常の部屋。正面に張られた等身大のモノクロ写真は若き日の主のヌード写真。葉っぱで股間を隠しただけで「シェー」のポーズ。至る所に隠すことのない赤塚さんのプライベート写真でいっぱいだ。藤子不二雄(A)さんから近所のオジサンまで、さまざまな人との交流が写真からもわかる。誰とナニをしている写真なのか、宝探し気分で観賞できる。

 この場所で夜ごと、繰り広げられていた宴席を支えたテーブルは新事務所に移転していたが、机の前で仕事するバカボンパパ人形が鎮座する。

「これも見ていただきたくて捨てずに残しました」という床に敷かれたカーペット。赤塚さんがいつも座っていた箇所にある複数の焦げ跡は、たばこによるものだ。

 2階では先生よりも威張っていた愛猫・菊千代も写真でお出迎え。十八番の万歳ポーズから主と戯れる写真まで拝見できる。銀行口座を持っていた菊千代の通帳も棚にあった。

「赤塚が亡くなった後、銀行から“口座を整理して欲しい”と連絡があり、探したら出てきました。まだ7万円ありました(笑)」(りえ子さん)

 通帳の隣には赤塚さんが菊千代の口座から勝手に借りた「借用書」まであった。テレビからは生前の赤塚夫妻のたわいもない日常会話の様子を撮ったビデオが流れている。亡くなったとは思えない不思議な感覚を味わえる。テレビの上の棚には10本を超えるリモコンも並ぶ。「この部屋で使っていた歴代のリモコンを面白そうだから並べた」というりえ子さんのセンス。間違いなく父親から受け継いだ遺伝子だ。

 2階奥の部屋の中央にはド派手な色のネオンが輝く巨大な位牌が電動でぐるぐる回っている。表には「赤塚不二夫」、裏は戒名の「不二院釋漫雄」とある。新手のアトラクションのようにも見えるが、位牌をアートにしたりえ子さんの作品だ。ロンドンの大学でファインアートを学んだ腕で作り上げた。

「父はネオン街が大好きだったので、ネオンで父の身長と同じ等身大の位牌を作りました。生と死の境界線をなくすため、俗名と法名が書かれた部分を回転させました」(りえ子さん)

 3階はフジオプロの仕事場写真を展示。漫画家・赤塚不二夫の歩みを知ることができる。奥の部屋に飾られてあった還暦のお祝いで着た真っ赤なタキシードは大好きだったチャップリン仕立て。

 展示中の写真総数だけで1000枚を超える。漫画家らしく吹き出しによるコメントと説明まである。至れり尽くせりの大展示会。「これでいいのだ」と赤塚さんの声が天から聞こえてくるようだった。

(取材・文=二田一比古)

開催期間は11月20日まで

「フジオプロ旧社屋をこわすのだ!!展『ねぇ、何しに来たの?』」(「フジオプロ」の旧社屋=東京都新宿区中落合1-3-15で木、金、土、日曜日に開催)。

 9月29日から開催中。当初、10月末までの開催予定だったが、チケットが即完売するほど大好評につき、開催期間が11月20日まで延長された。チケット発売中。詳細は公式サイトまで。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動