堺正章の圧倒的なカッコ良さと、二度とめぐり来ない時代へのあまやかな郷愁
「芸能界誕生」刊行を企画したのはテレビ制作会社大手ハウフルスの菅原正豊会長。かつて夢の箱とも呼ばれたテレビの中心にあったザ・芸能界の歴史を知ることにより、現役世代に「自分たちが次の時代をつくっていくんだ」と思ってもらえれば本望だと企画者と著者は唱和する。
菅原さんの後ろ盾を得て実現したインタビューには田辺さんに加えて、堀さん、曲直瀬道枝さん(マナセプロダクション)の名前も。どれも読みごたえたっぷり。〈進駐軍とジャズ〉〈ジャズ喫茶とロカビリー〉〈テレビと和製ポップス〉〈男性アイドルとGS〉の4部構成も奏功し、高いリーダビリティーをつくりだしている。
難があるとすれば、堀さんと田辺さんの登場場面はカッコ良すぎるか。まあ彼らが斯界の「カッコいい」を定義したのだから当然か。
文中での堀・田辺コンビのカッコよさは、ぼくの知る堺さんのそれと同種同根。それを知るにおよび、今後も堺正章の活躍は続くことを確信した。その一方で、企画者の本望に反して「堺正章(のようなスター)を生み出した時代」の再来はなかろうという悲しい予感も得たのは皮肉だが。
44歳の著者は、出会いよりも袂を分かつ場面でこそ精妙な筆致が冴える。無意識の産物なのか、あるいはサウダージ──二度とめぐり来ることがない時代へのあまやかな郷愁ゆえか。真相は実際に読んで確かめていただきたい。