堺正章の圧倒的なカッコ良さと、二度とめぐり来ない時代へのあまやかな郷愁
音楽を入り口に芸能界と関わりを持つようになって30年以上経つ。たくさんのスターに会った。だがそんな思い込みがじつはおめでたい勘違いではと疑いはじめたのは、2年ほど前にテレビ番組で堺正章さんと共演してからである。以来、仕事や私的な場で堺さんと幾たびかご一緒してきたが、顔を合わせるごとに自分が抱いてきた「スター」の定義は刷新されていった。
1962年にグループサウンズの嚆矢ザ・スパイダースに加入して以来、堺正章はずっと超のつくスターである。一度もその座をうしなったことがない。76歳の現在も頭の回転はおそろしく速く、番組収録中も洒脱なジョークをアドリブで連発する。
そこにひと刷毛のかなしみを織り込むことも忘れない。TVカメラの前を離れると、イタリアの希少な旧車を乗りこなし、仕立てのよい美しい服をかの国流儀で着こなす。洗練された所作にはオンとオフの差が存在しない。ひと言でいえば、もう圧倒的に「カッコいい」。
心の底からスターと呼びたくなるこの御仁と会うと、ふだん自分が接する若い歌手やタレントを同じスターという言葉でくくるのは、どこか間違っている気がしてくる。たとえ彼らにどれだけヒット作や知名度があろうとも、だ。思いをめぐらせる先は自然、堺正章を生み出した時代と彼を取り巻く人々へ向かっていく。