岸田首相は“雑誌の底力”を甘く見ていた 田中角栄も宇野宗佑も安倍晋三も射止めているのだ
昔、週刊誌記者は「首輪のない猟犬」といわれた。
上品ぶった新聞・テレビがやらない、権力者たちのカネと下半身問題を容赦なく追及したために名づけられた。
今の岸田内閣、1カ月もの間に3人の閣僚が更迭されたが、週刊誌が果たした役割は大きかった。山際大志郎経済再生相と統一教会との癒着関係を次々に暴き、瀬戸際に追い詰めたのは、週刊誌連合軍だった。
寺田稔総務相の「政治資金問題は10月上旬、週刊文春の報道で明るみに。自らが代表を務める政党支部などが事務所を置くビルの賃料を10年間妻に払っていたことが批判を浴び、政治資金の貸し付けや会計責任者などの記載の不備も相次いで表面化した」(朝日新聞11月21日付1面)。
文春は寺田の疑惑を連続追及して、岸田首相は渋々、側近を更迭せざるを得なくなった。
次の“更迭”最有力候補といわれる秋葉賢也復興相の「選挙運動員買収」疑惑を報じたのは、フライデーのデジタル版だった。朝日新聞(11月26日付)は社説で取り上げた。
さらに文春は、岸田首相自らも、昨秋の衆院選の際、広島県選管に提出した報告書に添付した領収書の3分の1が、ただし書きも宛名も空白で、公選法違反ではないかと報じた。
これが週刊誌の底力である。週刊誌OBとして喝采を送りたい。
新聞が政局報道ばかりにうつつを抜かし、権力監視という役割を十全に果たしていないため、週刊誌の存在感はますます増していくに違いない。
週刊誌を含めた雑誌メディアが、「権力者の首」を取ったケースはこれまで何度もあった。有名なのは文芸春秋(1974年11月号)に発表した、立花隆「田中角栄研究─その金脈と人脈」と、田中の愛人で金庫番の佐藤昭について書いた児玉隆也の「淋しき越山会の女王」だろう。今太閤といわれ権勢を誇っていた田中角栄首相を追い落とすきっかけになった。
“じゃじゃ馬”といわれた娘の真紀子が児玉の記事を読んで激怒したため、角栄は辞意を固めたという説に信憑(しんぴょう)性があると、私は思っている。
鳥越俊太郎編集長がサンデー毎日(1989年6月18日号)で報じた、宇野宗佑首相のスキャンダル「30万円で私の体を自由にした」も、今なお語り継がれているスクープである。
この記事が出た後の参院選で自民党は初の過半数割れになり、わずか69日で宇野は退陣した。