NHK-FM「松尾潔のメロウな夜」終了決定 自分の番組打ち切りを体感するのは何ともせつない
例えば第1章はこんな具合だ。1979年、中1の主人公は学校を欠席した級友ヤスダのために、その日のプリントなどを渡すべく、安アパートへと向かう。〈錆が広がっていて、もう何色か分からない〉階段を上がって、六畳間に父ひとり子ひとりで住むヤスダ家を訪ねると、〈片膝を立てながら日清どん兵衛を食べていた〉ヤスダがいた。電話もテレビもない部屋でAMラジオから流れるのは〈前年の78年に「みずいろの雨」で人気が盛り上がった八神純子〉の「想い出のスクリーン」。その曲が好きという接点を見出したふたりは、ぎこちなく、しかし互いの体温を通い合わせるように言葉を交わしあうのだが──。
絶品である。ここで音楽が聞こえてくるのがラジオからでなければならないことは、物語を読み進めれば愛好者でなくとも自然に納得できるはずだ。その後ショッキングな事実が判明し、主人公は生まれて初めて貧困や差別の何たるかを知る。ガラス細工のように脆い少年の心が粉々に崩れずに済んだのは〈ラジオから流れる八神純子〉の記憶のおかげだった。
ところで、ラジオの子スージーさんもまたラジオ番組『9の音粋』(ベイFM)のDJの顔を持つ。聴けば明らか、「不要不急」の集大成的プログラム。だからこそ必要とするひとたちがいる。