松尾潔(後編)「お前は音楽のことだけやってろ」って風潮は危険です
日刊ゲンダイで「松尾潔のメロウな木曜日」を連載中の音楽プロデューサー・松尾潔氏が、1月に上梓した新刊「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」(講談社)。上編に続いて、現在の日本を覆う言論空間に警鐘を鳴らしつつ、連載中の秘話・挿話・逸話について存分に語ってもらった。
■ジャニーズ問題の本質は人権問題
──「メロウな木曜日」の連載が始まって1年半、音楽業界からの反応はどうでしたか?
松尾 残念ながら、現役の音楽業界人は、さほど話題にしていませんでした。その半面、2人きりになったときに「チェックしています」って言う人もいたり「応援してます」って急にお歳暮を贈ってきた人もいた(笑)。
──わかりやすいですね。
松尾 でしょう(笑)。ただ、何度も言っていますが、僕の場合、批判ではなくて提言なんでね。そこを踏み越えてはいないつもり。
──それでも、面識のある人を取り上げるのは、なかなか出来ないように思うんですが。
松尾 うーん……でも、僕の考えうる本当の人付き合いってそっちなんでね。それに、香川照之さんにしろ、藤島ジュリー景子さんにしろ、プライベートの空間における発言を書いたわけではなくて、彼らがメディアを通して発言したことへの言及ですから。
──ちなみに、連載が世間の耳目を一斉に集めたのが、ジャニーズ問題に端を発した「スマイルカンパニー契約解除全真相」でした。
松尾 最初にまず言っておかなければならないのは、ジャニーズ問題の本質は人権の問題であること。子供の人権を著しく脅かす問題として「被害に遭う子供たちを再生産しなくていい社会」「今の子供たちに未来への無力感を与えないように」という提言をしたかった。
──とはいえ、「よく踏み込んだなあ」と驚いた人も多かったと思います。
松尾 だって、そういう提言をするときに「この分野はタブーです」って言って逃げるのはナンセンスでしょう。例えば「私は眼科医なので、この視力の低下は明らかに食生活の劣化から来ているのはわかります。でも、それについては専門外なんで言いません」って言う医者に身を委ねたくはないもの(笑)。
──アハハ。
松尾 この頃、旧ツイッターで契約解除について投稿したら3000万以上の閲覧がありました。手ごたえや高揚感もあったけど、芸能記者に追っかけ回されたりしたこともあって「メロウな木曜日」で書くことに決めたんです。