【四月歌舞伎評】仁左衛門と玉三郎の共演…劇的で至福な、夕方6時5分からの20分間
極端に言えば、今月の歌舞伎座は夕方6時5分から25分までの20分だけでいい。仁左衛門と玉三郎の『神田祭』だ。
仁左衛門の鳶頭がただただかっこいい。玉三郎の芸者が、ひたすら艶やか。
舞踊劇なのでドラマらしいものもない。この2人も名前はなく、「鳶頭」と「芸者」でしかない。それなのに、何よりも劇的なのだ。
仁左衛門・玉三郎は半世紀にわたり共演を重ねてきた。その時間が観客を至福の時へと導く。ラスト、花道を去るときに、2人は笑顔で客席を見渡して会釈をする。それは、役者・仁左衛門と玉三郎としてのようでもあり、鳶頭と芸者としてのようでもある。観客としては、もはやそんなことはどうでもよく、この至福の時がこの1秒でも長く続いてほしい。そう思っているのに、2人は去り、幕は引かれる。
『神田祭』の前に、仁左衛門と玉三郎の『於染久松色読販』の「土手のお六・鬼門の喜兵衛」があり、ここでも2人は息のあった芝居を見せる。
長い芝居の中のひとつのエピソードを抜き出して構成したもので、タイトルのお染と久松は出てこない。仁左衛門・玉三郎とも悪人で、ドラマとしても詐欺が失敗する話で面白いが美しさはない。