歌手・由紀さおりさんの元気の源はチャレンジ 「目標に向って決して諦めないこと」

公開日: 更新日:

針の穴を通すよう人とのつながりで実現したコラボアイテム「1969」

 ピンク・マルティーニとのコラボレーションは偶然が重なったたまものでした。コラボアルバム「1969」がリリースされたのは11年、東日本大震災の年です。スタッフのひとりがYouTubeで「天使のスキャット」のカップリング曲「タ・ヤ・タン」を日本語で歌っているピンク・マルティーニを見つけ、それがきっかけで10年のピンク・マルティーニのビルボードライブ東京のコンサートに飛び入り出演するんですね。

 震災前は新曲を誰に書いていただくか悩んでいた時期です。AKB48全盛の時代ですから秋元康さんに相談した方がいいよと言ってくださる方がいたので、お会いしました。秋元先生に「由紀さんの『夜明けのスキャット』はラジオの時代のヒットだよね、あの時代の歌をもう一度やるのもいいけど、ただやるだけじゃお客さんは来ないよ」と言われてグサッときました。先生が書いてくださることにはなったけど、私の中ではモヤモヤしたものがありました。

 その後、しばらくしてピンク・マルティーニとのカバーアルバム制作のアイデアが出てスタッフが何度もメールのやりとりをしたのですが、具体的に進まない状況が続き、スタッフが一度打ち合わせに会いに行きました。そんなさなかに震災が起きるわけです。仕事は震災ですべてなくなりましたから、自分でポートランドまで行って確かめたいと思い立つんです。私に不動産関係の知り合いがいて、その方が海外の賃貸契約を確認するのにポートランドにも定期的に出かけているという話を聞いていました。そして、その方が利用している旅行会社の日本人の担当がピアノのトーマスさんととても仲がいいということもわかった。

 私がスタッフにポートランドに行きたいと直訴したら、トーマスさんと仲がいい人がいるなら一人でも大丈夫だろうと理解してくれて、出かける準備を始めました。それでその方に連絡したら、電話が通じて「新幹線の中から話してます」というじゃないですか。「どうしたんですか」と聞いたら、「ポートランドの日系人の方を旅行に連れてきている」と。

 私はトーマスさんに会いたいとお願いしました。聞けば、その人はフジテレビで放送された「オレゴンから愛」を撮っていた時に仕切っていた旅行会社の社員で、3.11で被災した人のためのチャリティーコンサートをやることになっている、それをプロデュースするのがトーマスさんだというのです。もうトントン拍子に話がつながりました。

 それならとポートランドに出かけ、トーマスさんのピアノで「夜明けのスキャット」「故郷」「赤とんぼ」を歌いました。それが認めてもらえるかどうかで彼らとコラボできるか決まると思ったので、ものすごく緊張したのを覚えています。トーマスさんに「2日間くらいポートランドに残ることができるか」と言われた時はホッとして、「大丈夫」と即答していました。

 仕事は何もないわけですから、GWに10日くらい、またアルバムのレコーディングのためにポートランドに来ることを約束しました。トーマスさんもレコーディングできるのはその10日間だけということでした。私は出かけて行って、残りの曲を全部レコーディングして帰ってきました。

「1969」はジャズチャート1位になり、世界的なヒットになったわけだけど、そもそもは新幹線にいた神様が接点をつくってくださったこと、私の友人の友人がトーマスさんと私をつなぐ役割をしてくれたことで実現したアルバムです。彼らを知ってから完成するまで3年くらいかかりましたが、やはり諦めなかったから実現できたことだと思います。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動