歌手・由紀さおりさんの元気の源はチャレンジ 「目標に向って決して諦めないこと」
三味線で一人芝居を始めた延長線上に「チントンシャンソン」
彼らとは、3年半くらい一緒に仕事をして、世界中を回りました。その間、インターネットが発達して世界のありようも音楽のありようも百八十度変わりました。音楽はパソコンで作るグループ、そうじゃないグループがいて混沌としています。そんな中で迎えたのが50周年です。20年に三味線を始めて、東京の観世能楽堂で一人芝居をやりました。でも、コロナで大阪と名古屋の能楽堂で予定していた再演は中止にしました。
その時、せっかく始めた三味線を私なりに着地することができないのは嫌だなと思いました。気になったのは能楽堂の一人芝居を見にきてくださった名取りさんに言われた一言。「私たちは三味線は弾くけど、歌えないからね」。そう言って帰っていった。それで、私は歌手だから、弾くだけじゃなく歌うこともできると気がつくわけです。それからお師匠さんとも相談して、赤坂のライブハウスでジャズチームと一緒に着物を着て三味線を弾き、歌うライブを2年くらいやりました。最初はうまくいかなかった。惨憺たるものでした。2年目からは、まあなんとかという感じでしたが。
そして、大阪の新歌舞伎座でトライアウト的にやらせてもらう機会を得て、来てくださった方がとても喜んでくださった。55周年でもぜひやってみたいと言ったら4月21日の55周年の新歌舞伎座公演が決まりました。さらに、パリでのコンサートも。来年4月に締めくくる予定です。
コンサートの1部では着物で三味線を弾きながら歌い、2部は私の歌とシャンソンを歌います。パリで歌うからフランスの方に曲を作ってもらうことになり、何作か作ってもらい、その中から1曲選び、松井五郎先生に作詞していただいて、新曲「人生は素晴らしい」ができました。
三味線を一緒に弾いてくれるのはお師匠さんの弟子のアメリカ人です。パリでやるから挨拶ぐらいはできないといけないと思って、月に2回、フランス語の学校に通っています。歌う時はフランス語の都々逸をネタでやって、笑いを取ろうかと(笑)。コンサートを構成してくださる先生が、私の三味線のところのために「さおりのチントンシャンソン」というのも作ってくださいました。
ステージに自分の足で立てないと歌うことができないので、6年前からパーソナルトレーナーにもついています。足腰と股関節を柔らかくして体幹をキープしないと、着物を着てお草履でステージに立ち、それから7センチのヒールに履き替えて動くことなんてできませんからね。
サブスクで何でも聴けちゃう時代。会場に足を運んでもらうには、そこで聴いてみたい何かをやらないといけない。拙い三味線でもいいし、チントンシャンソンでもいい、ネタでもいいから、出かけて、見てみたいと思わせる何かをやらないとダメだと思います。
自分の体調、与えられた条件の中で「今日の一番」をやることができるか。それがステージに向かうポリシーであり、夢を見続けることが私の生きる力です。
(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)
▽4月17日リリース 新曲「人生は素晴らしい」、デビュー55周年「由紀さおりベストオブベスト~55th anniversary」。「由紀さおり 55th コンサート~新しいわたし~」4月21日新歌舞伎座、5月17、18日パリ日本文化会館