経済アナリスト森永康平さん「親父はすごい。同じように生きたい」父・卓郎さんは「原発不明の末期がん」
子供たちに「経済」を知ってほしくて格闘技を
余命宣告を受けたら、普通は仕事をやめ、家族と思い出づくりをしたり、ベッドで安静にしたりするものですよね。僕も父には無理しないでほしいと願っています。でも、言ってきく人ではありません。終末期であってもいつも通り活動している父の様子をメディアなどで知った方々から「勇気や希望をもらった」という声をたくさんいただきます。これは経済アナリストにはできないこと。いち人間として父はすごい人だなと感じています。
よく考えてみると、たいていの人は自分の命はずっと続くつもりで生きているけれど、命の最後は誰にもわかりません。余命宣告を受けてもピッタリそこで死ぬとは限りません。逆に、今この瞬間に、その時がやってくるかもしれません。がん患者に限らず。
最後までやりたいことを普通にやって、その時が来たらおしまい。それでいいのかなと思うようになりました。だから僕もいつか余命宣告を受ける時がきても、きっと父と同じように生きると思いますね。
僕が周りに反対されながらもやっているのは格闘技です。明治大学政治経済学部を卒業後、国内外の金融機関で働き、2018年、33歳の時に、子ども向けに金融教育をする株式会社「マネネ」を設立しました。金融教育は子どものうちから必要で、きちんと受けていないから詐欺にも引っかかりやすいのだと考えるからです。
子どもたちに経済や政治、お金の話に興味をもってもらうためにはどうすればいいかと考え、去年子どもたちに人気の格闘技を始めました。格闘技をやっているオジサンを面白く思ってもらえれば、それをきっかけに興味をもってもらえるのではないかと。もともと格闘技観戦が大好きで、学生時代は柔道や空手をやり、素地もありました。
食事制限や運動で減量し、少しずつ走ることから始めました。
去年9月にキックボクシング、10月にMMA(総合格闘技)でアマチュアデビューし、今年の8月30日には元K-1王者の小比類巻貴之氏がプロデュースする「EXECUTIVE FIGHT-BUSHIDO-」でタイトルマッチを戦います。
想像していたより戦いはずっとハードです。それでも強くなりたいという気持ちと、38歳と遅い年齢で始めてどこまでいけるのか突き詰めたい気持ちになっています。最初の動機よりも今はその方が強いですね。
仕事は企業経営者向けにインフレや賃上げをテーマに話す講演が中心になっていますが、目指すところは哲学的な観点で経済を語れるようになりたい。カール・ポランニーやアダム・スミスといった経済学者に憧れていて、いつかは彼らの境地に達したい。そのためにランニングをしながら昔読んだ経済や哲学に関する書籍をオーディオブックで聞いたりして勉強しています。
(聞き手=中野裕子)