【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話
■「はいからさんが通る」は当初、どうなの?と…(南野)
松尾 わかる気がします……。今回「ザ・ベストテン」の出演映像を収録したブルーレイBOXが出ましたね。何より痛感するのは、この時代のヒット曲は「熱心なファン以外の人でも口ずさめる」ってこと。その意味でいえば、10曲目の「はいからさんが通る」の衣装の「袴・編み上げ」スタイルが、卒業式シーズンの定番になったことなんて、まさに当時のヒット曲の影響力の凄まじさを象徴していますね。
南野 それまでは振り袖が卒業式の定番の装いだったんですよね。それもあって、ある呉服屋さんから「振り袖の方が高いんで、ちょっと微妙ですけど」とか言われながら、表彰されたことがありました(笑)。
松尾 それはそれは(笑)。でも、さっきも言いましたが、当時は細かく聴き込んでなかった僕が、いまプロの耳で聴いてみると「秋からも、そばにいて」はよくできてるなあ。大袈裟ではなく屈指の楽曲ですよ。
南野 ありがとうございます。あの曲はレコーディングで初めて曲を聴いたときに、頭のパイプオルガンが重厚な感じで、好きなストリングスもいっぱいで、すごく気に入ってたんです。でも、あがってきた詞が「サークルの部員同士の恋愛」で「何でこの曲にこれをハメんの? 一体、どういうセンス!」って当時かなりキツくなじったんです(笑)。
松尾 なじったんだ(笑)。
南野 「詞がダメ」というわけじゃないんです。「この曲にはどうなの?」ってこと。それでも「もう、間に合わないから」って言われて、そのままレコーディングして(苦笑)。
松尾 そんな経緯があったんですね。この年齢になって聴いた僕の印象を言っていいですか。「夏」というのが「青春」とニアリーイコールになっていて、「秋からも……」っていうタイトルは「青春が終わって、大人になってからもパートナーとして一緒にいてほしい」って聞こえるんです。
南野 ああ、なるほど。
松尾 もちろん、作った方にも当時はそんな意図はなかっただろうけど、長年のファンの方にとっては「人生の伴走者ナンノ」のテーマ曲として成立するんじゃないかな。
南野 今、松尾さんにそう言われて「そうなんだ。これからは、そう思って歌っていけばいいんだ」って思いました。うれしいです。ヒントをいただけてありがとうございます。
松尾 僕もうれしいです。曲とか作品が新しい意味を帯びてくるってそういうことでしょう。
南野 そうですね。じゃあ「辞める」とか「バツ2の事務」とか言わずに、もう少し続けてみようかな(笑)。
松尾 アハハ、いや、もっと続けて下さいよ。
南野 でも、私、3時間くらいで意見がコロコロ変わるんですけどね(笑)。 =おわり
(構成=細田昌志 取材協力=新宿「風花」)
▽みなみの・ようこ 1967年6月23日生まれ、兵庫県出身。85年「恥ずかしすぎて」でデビュー。主演ドラマ「スケバン刑事Ⅱ」で注目され、歌手、女優として活躍。伝説の歌番組「ザ・ベストテン」(TBS系)への出演映像を収録したブルーレイBOX「南野陽子ザ・ベストテンコレクション」が発売中。
▽まつお・きよし 1968年1月4日生まれ、福岡県出身。早大卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。近著「おれの歌を止めるな」(講談社)が発売中。