かつての“勧善懲悪”は廃れ…時代劇の復活は本物か?『八犬伝』『十一人の賊軍』が趨勢を占う
名脚本家・笠原和夫が残した原案を映画化した「十一人の賊軍」は、幕末の戊辰戦争で激戦地となった北陸の新発田藩を舞台に、新政府軍と旧幕府軍の奥羽越列藩同盟という、敵対する2つの勢力の板挟みになった新発田藩の家老が、10人の死刑囚を使ってこの窮地をくぐり抜けようとするもの。彼らはある砦を新政府軍の侵攻から防ぐ代わりに、死罪を免じられるのだが、言ってみれば新発田藩を存続させるための捨て石でしかない。死刑囚たちは自分が生きるために戦い続けるが、新発田藩、旧幕府軍、新政府軍のいずれにも正義はない。そこには立場が違う、権力争いがあるだけである。劇中では派手なアクションが満載で、中でも死刑囚と行動を共にする直心影流の使い手を演じた仲野太賀は本格的なチャンバラは初めてだったというが、素晴らしい太刀さばきを披露している。
国ごとにそれぞれの正義を主張し、民間人を巻き込んだ攻撃が世界中で日常化した現代。本当の正義を見失った今に、折り合った時代劇とは何なのかを、この2作品は模索している。その挑戦が観客にどう受け止められるかが見ものだが、時代劇ではもう1本、第2の“カメ止め”として大ヒット上映中の「侍タイムスリッパー」にも注目。幕末と現代をタイムスリップしてきた侍によってつなぐこの作品は、斜陽の一途をたどる時代劇へのラブレターにもなっている。その点ではまさに今生まれるべき時代劇だったわけで、さまざまな角度から生き残りをかけて、時代劇の作り手はジャンルの可能性を探っているのである。
(金澤誠/映画ライター)