「芸人=女とギャンブル」の時代は終わった。M-1王者・高比良くるまの謹慎がもたらすもの
自粛が相次ぐ「オンラインカジノ」問題
吉本芸人の相次ぐ「オンラインカジノ」問題。M-1王者令和ロマンをはじめ、ダイタクや9番街レトロなど劇場の人気者たちが次々と活動自粛に追い込まれても、話題は鎮火することなくまだまだ燃え盛っている。
かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという現役の芸人・帽子田が、「芸人界のオンラインカジノ問題」の現状について解説する。
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芸人の必修科目感すらあった「女と賭博」
近年の芸人界を見ていると、つくづく10年前と変わったと感じる。女とギャンブルの失敗は芸人のエピソードの定番であり、数年前までは「必修」感すらあった。
女性トラブルは身を滅ぼすということは、ダウンタウン松本さんの件で大いに身に染みた芸人たちだが、「ギャンブルは大丈夫」と思い込んでいた。
テレビではクズ芸人キャラがいまだに人気だし、女性問題と違ってギャンブルは直接的な被害者はいない。傷つくのは自分だけ。だから大丈夫だし笑えるーーと思っていたが、遊ぶ場所を間違えるとこんなに大問題になるのだと、ようやく気付いた芸人も多いだろう。
この問題の発端は「ダイタクの吉本大にオンラインカジノのために数千万を貸した」という女性の暴露からはじまり、続いて9番街レトロのなかむら☆しゅんの関与も明らかにされた。この二人の名前が出た時点で、口にせずとも他の芸人は「もっと芋づる式にあぶりだされるぞ」とも思っていた。
なぜなら芸人は芸人とつるんで遊ぶからだ。ダイタクや9番街レトロのような人望が厚く、人気がある芸人がオンラインカジノで遊んでいたということは、きっとその他多くの芸人たちも同じように遊んでいるんだろうと簡単に予想できた。とはいえ、次に引っ張り出されたのがM-1王者の令和ロマンだとは思わなかった。
予想外だった高比良くるまの報道
令和ロマン・高比良くるまは高学歴でインテリだし、オンラインカジノなんて危ないものに手を染めるイメージが湧かなかったので、僕は正直すごく驚いた。報道が出たときには、渦中にいない芸人たちは「次はギャンブル好きを公言しているクズ芸人たちが引っかかるぞ」なんて話していたから、予想は大きく裏切られたのだ。
くるまがオンラインカジノに関与していることが分かったのは『ザ・イロモネア』(TBS系)の収録中だったらしく、途中退席を迫られたというから、どれだけテレビ界が過敏になっているかが分かる。
さらにくるまはこの期間に女性関係の報道も出てしまい、釈明を余儀なくされた。まさに踏んだり蹴ったりで、この件で一番ダメージを食らった気がする。
クズ芸人たちが(今のところ)クリーンという可笑しさ
吉本はもちろん、他事務所でも芸人のオンラインカジノに関する内部調査は進んでいるらしい。
こういう時に動きが早いのはやっぱりタイタンで、調査の結果複数人がオンラインカジノに関与していたことを発表。ただその程度から名前は公表せず、陳謝して捜査に協力させることを約束するなど、まさにパーフェクトな対応だった。吉本も見習った方がよい。
その他の事務所も聞き取り調査などが入っているようで、今後はギャンブルについてのコンプライアンスも強く遵守されるようになるだろう。
ダイタクのダイはギャンブル好きを売りにしていたので、似たようなクズ芸人が真っ先に狩られると思っていたが、今のところ何にもないのが面白かった。きっと問題が生じたときに、吉本のクズ売り芸人たちもきっとヒアリングなり聞き取り調査なりが行われただろう。
それなのに現在に至るまで、名前が上がらないので、クズ芸人は疑われやすいからこそ、「法には触れない」というボーダーを意識していたのかもしれない。
不祥事を笑いに変える芸人の強み
これからは「女や金にだらしないクズ」もブランディングとして管理しながら、ボーダーを守って行動していく必要がありそうだ。ギャンブルも女遊びも芸人の特権だったが、M-1を連覇した偉業を持ってさえしても謹慎を食らってしまう世の中になった。
令和ロマンや他の謹慎している芸人たちのファンはきっと生きた心地がしないだろうが、部外者の僕から見ても解雇される可能性はほぼ0だと思う。どちらかと言えば、責任を感じた芸人から申し出てフリーになる可能性の方がまだありそうだ。
この問題が起こってから、仲間の芸人たちが謹慎芸人たちを大いにイジっている姿をよく目にする。それは該当芸人たちに「悪人」イメージをつけないように、「復帰してもこうやっていじって面白くするから、彼らを排除しないでください」と奔走しているのだ。
不祥事を起こした芸人がタブー視されることで復帰できなくなる選択肢を全力でかき消そうと連携プレーで動けるところは、芸人の強みだと思う。
芸人は他芸人の大失敗から学ぶ生き物
とはいえ、吉本は闇営業事件から厳しくコンプライアンス研修をやっているが、全く効果がないのはちょっと皮肉に感じてしまう。
しかし、芸人は他の芸人の失敗から学ぶので、今後は同じような問題は起こらないと思う。芸人という生き物は何百回のコンプラ研修より、1回の他芸人の大失敗から学ぶ生き物だからだ。
芸人はこれからは汚いように見せながらも潔白にやっていく必要があるらしい。いま謹慎中の芸人たちも皆とてつもなく面白くて才能があり、これからのお笑い界を担う人材ばかりなので、反省したうえでまた劇場に戻ってきてほしい。
(帽子田/芸人、ライター)