「シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方」新井紀子著/東洋経済新報社(選者:佐藤優)
ビジネスパーソンは、これを身につければ必要かつ十分
「シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方」新井紀子著/東洋経済新報社
言語には、読む、聞く、話す、書くという4つの能力がある。その基礎となるのは読む力だ。読んでわからないことは聞いてもわからない。ましてや、話したり書いたりすることはできないからだ。
最近、評者もあちこちで「部下の読解力が落ちているのだが、どうすればいいか」という相談を受ける。新井氏によるとこれは普遍的な現象のようだ。
<「部下が、意味不明の文書を提出してくるのです。昔だったら『こんなもの読めないだろ!』と突き返せばよかったのかもしれませんが、今は『パワハラだ』と訴えられかねません。がんばって赤字を入れて丁寧に指導しても、似たような文書を再提出してくるので、指摘するのに疲れてしまいました。自分が書いたほうが楽だと思って代わりに書いていたら、どんどん多忙になってしまいました」/このようなことは、日本中の企業や役所、学校で起こっています。未来のノーベル賞を、と期待されるような研究者が、大学院生の読み書き指導に追われるという信じ難い状況すら起きています>
要するに中学3年生レベルの国語力がついていないからそのようなことになる。日本の学習指導要領はよく出来ているので、もう一度、小学校5年生から中学3年生までの国語の教科書を買って勉強すれば、問題は解決する。しかし、それは時間がかかるし面倒だ。この問題を解決するのに新井氏らが開発したRST(リーディングスキルテスト)が役に立つ。RSTによって身につく力を新井氏は「シン読解力」と名付ける。「シン読解力」とは、<「知識や情報を伝達する目的で書かれた自己完結的な文書」を読み解く力という意味>だ。
文学的なアナロジー(類比)やメタファー(隠喩)が多用される神学書を読む際には「シン読解力」以外のスキルが必要になる。もっとも、ほとんどのビジネスパーソンにとっては「シン読解力」があれば必要かつ十分だ。
本書の巻末にはトレーニングパートが収録されている。この演習問題を解いて、コラムを読むことによって「シン読解力」を着実に身につけることが出来る。 ★★★
(2025年3月6日脱稿)