「時代とFUCKした男」加納典明(6)ムツゴウロウさんにも「俺ははっきり言うから。格好つけるなって」
①一流の物を使う意味
加納 「ああ。そういうことね。たとえばあれは僕流の考え方があって、畑さんがそういう何でもないものを使ってやるのも一つの世界観であるし価値観だけれども、もっといい世界があるんですよと意見したんです」
増田「釣りにしても」
加納「そう。例えば釣りにしても」
増田「道具によって違ってくると」
加納「違うね。本当の竿、優れた竿を使ってやるのと、自分で作ったいい加減な竿でやるのと、たとえば魚が掛かったときにくる引きから何から全然違うわけよ。畑さんのやり方も1つの考えとしては全然オッケーだとは思うけど、その違いを知ったほうがいいと思った。いいもの使うのもこだわりだけど、悪いものを使ってこだわっていたのが彼。それが格好いいと思って、誤解してたんだよ」
増田「僕はあれだけの人物、つまり畑正憲さんに言うことを聞かせる加納典明さんってどういう人なんだろうって、若い頃からずっと思ってたんです。関係性が不思議で。彼はものすごく頑固でしょう」
加納「頑固だね。自分を持っているともいえる」
増田「普通の人に言われたら、何言ってんだ馬鹿野郎ってなる。それが加納さんに言われて、そうだよなと納得して、これはどういうことなんだろうと」
加納「そうだな。そうだろうね。俺ははっきり言うからね。悪いものをわざと使って格好つけるなって」
(第7回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。