「田んぼのまん中のポツンと神社」えぬびい写真・文
「田んぼのまん中のポツンと神社」えぬびい写真・文
都会に暮らしている人でも、列車や車での移動中に、田んぼの中にぽつんとたたずむ小さな神社を見かけたことがあるだろう。
そんな田んぼの中の小さな神社を親しみを込めて「ポツ神(ポツジン)」と呼び、全国各地を旅して撮影してきた著者の作品集。
多くのポツ神は、参拝のために田んぼのあぜ道や農道とつながっている。しかし、千葉県香取市のポツ神「水神社」は、まるで田んぼの中に漂流する小島のように孤立しており、アクセスすることができない。
実は、かつて一帯は大きな池だったそうで、池のまん中の島に鎮座した神社に人々は舟をこいで参拝に向かっていたという。
代掻きされた田んぼのまん中で夕日をバックにシルエットになったポツ神は、トラクターの通った跡が絶妙な模様となり、まるで田んぼの中から今まさに出現したような神々しさだ。
さらに田植えを終えたあとの同じポツ神の写真を見ると、神社の周りにもすき間なく稲が植えられ、本当に田んぼの中に浮かんでいるかのように見える。
この神社があった池には、弁天様や白蛇にまつわる伝説が伝わっていたという。
奉納された鳥居が幾重にも連なり列をなす神社は各地にあるが、ポツ神では珍しい。
茨城県石岡市の「細内稲荷神社」は、それが見られる希少な神社だ。
空撮された写真を見ると、風雨にさらされ白木状態に戻った鳥居から、2023年に奉納された赤色が鮮やかな新しい鳥居まで、グラデーションをつくりながら社殿に向かっていくつもの鳥居が連なる。
この細内稲荷神社の社殿は、木々に覆われ写真ではその姿がよくわからないが、お隣のページ、栃木県芳賀郡市貝町の「八坂神社」は、ポツ神に対するイメージとは趣がちょっと異なり、堂々とした社殿を構える。
土地の形状も独特で、俯瞰すると農道から涙形の出島が田んぼに広がっているのだ。
そして冬、収穫を終えた田んぼはしばしの眠りにつく。山形県村山市の「荷渡神社」のあたり一帯は、深い雪にすっぽりと覆われ、鳥居の上部がわずかに雪の中から飛び出し、そこが神社であることを教えてくれる。高い木々に守られ、ポツ神も春までしばしのお休みだ。
こうして稲作の1年を追うように季節ごと、東北から九州まで80余社を紹介。
そもそも、なぜ田んぼの中にポツンと神社が存在するのか。これらの神社は、元から田んぼの中にあったわけではない。ポツ神が誕生した背景など、その歴史も解説。
昨年来の米不足で、改めて稲作の大切さを痛感させられたが、そんな田んぼを守り、米を作る人々の心のよりどころとなってきたポツ神に注目したお薦め本。
(飛鳥新社 2420円)