賑やかに行われた水の江滝子の「生前葬」
<1993年2月>
「一度でいいからターキーを抱きたかった」
水の江滝子の遺影の前でこう弔辞を述べたのは俳優の西村晃。その横で籐椅子に座った水の江本人が爆笑している。
2月19日、都内ホテルに500人が集まり、翌日78歳の誕生日を迎える水の江の生前葬が開かれていた。“故人”となった水の江は冒頭、「自分の遺影や花で飾られた祭壇を生きているうちに見られるのはとても幸せ」と挨拶。前代未聞の葬式がスタートした。
前年、亡くなったいずみたくと中村八大の追悼コンサートに出席したのがきっかけだった。そのプロデュースをした永六輔に「生きているうちにこうしたことをやりたい」と相談すると「じゃあ、生前葬でもやりますか」という話になり、トントン拍子に進んでいった。
それまでにも、生前葬の例がなかったわけではない。有名なのは60年に開かれた児玉誉士夫の生前葬。2人目の妻・安都子さんを交通事故で亡くした際、自らの葬儀も一緒に行うことにした。約2時間、裃(かみしも)を着けた児玉は微動だにせず、会葬は厳かに進められた。