苦悩のスカウト…アマ大会中止でドラフト候補をどう評価?

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 球界の目利きたちの長い活動休止期間が明けた。今月1日から日本学生野球協会とNPBの合意のもと、再開されたプロ野球のスカウト活動。新型コロナウイルス感染拡大の恐れもあり、各球団は春先から活動を自粛していた。高校生は春のセンバツ、そして夏の甲子園、大学野球は春季リーグが中止。社会人野球も都市対抗が延期となっている。

 そんな長い“冬”も5月25日をもって緊急事態宣言が解除され、活動を開始したチームも多い。スカウトたちも腕を撫しているだろう。

 長く練習をしていなかったドラフト候補を評価するのは簡単なことではない。スカウトはこの困難にどう対処しているのか。

■夏の球児は予測不可能

 中日の米村明チーフスカウトは「基本的には今まで通りの活動方針に変わりはないが」と、前置きしてこう続ける。

「高校生の成長が見極められないのは残念ですね。プロだって、開幕に向けた調整期間の短さに難儀しています。まして練習が解禁となった高校生が、すぐに本調子で動けるわけがない。各高校も6月頭から部活動が再開されていますが、そこですぐに見に行ってその場で決断……なんて、できませんよ。現在、ドラフト候補に挙がっている選手は高校生から社会人まで合わせて約300人。そのすべてを、ドラフトまでに視察できるのか? といえば、正直無理です。特に高校生は3年時に急成長する選手が多いですからね」

 日本ハムの山田正雄スカウト顧問も、夏の高校生の成長力についてこう語る。

「甲子園を目指す球児は、春から夏までの短い期間で信じられないくらい伸びる。過去の選手で言えば、松坂大輔横浜、現西武)や田中将大(駒大苫小牧、現ヤンキース)が顕著でした。夏の甲子園という目標があるからこそ、死に物狂いで厳しい練習に耐えて飛躍的に成長する。これはどんなスカウトであっても、予測不可能。もちろん、高校時代のデータが似通っているプロの選手を参考に『この選手はこう伸びたから、この候補も……』と予測はします。しかし、3年の夏の大会を経験していない今年のドラフト候補たちが、その通りに伸びてくれるかどうか。特に今年は飛び抜けた実力の高校生がいない分、見極めが難しい」

■例年なら春先レベル

 とはいえ、選手をその目で見ないことには始まらない。各スカウトはどのような点をチェックしているのか。

 2018年ドラフト1位の小園海斗(報徳学園)らを担当した広島の関西地区担当・鞘師智也スカウトがこう言う。

「大学、社会人の選手は秋まで見られるので、今は高校生の視察が最優先。見たい選手がいる高校に連絡をして確認してから、練習を見せてもらっている段階です。1日の解禁日以降に見に行った高校生でも、良くなっている選手は結構いますよ。見るのは去年の秋以来なので、自粛期間中に頑張ったのか、冬の間に成長したのかは分かりません。例年なら3月から5月にかけて選手をじっくり絞り込んで、7月の地方大会を見ていましたが、春先にやることを今やっている感じですね。高校生は練習である程度の人数まで絞った上で、7月以降の代替大会で最終確認します。練習はいいのに……というブルペンエースのような選手もいるので、最終的には実戦を見ないと判断できません。その点、8月にやるというセンバツ出場校の『甲子園高校野球交流試合』は、もし見せてもらえるなら助かります」

 山田スカウト顧問も言う。

「もちろん試合で見るのが一番ですが、練習でしか見られない部分もある。例えば、守備能力。実戦ではドラフト候補の選手にばかり打球が飛んでくるわけではないので、基本的な守備力は練習の方が参考になります。投手ならば、遠投で分かる地肩の強さや、外野ノックに参加したときのスタミナ。コロナ禍で練習ができなくとも、身体能力はそれほど衰えるものではありませんから」

■チーム状況との兼ね合い

 ドラフト候補の能力の見極めも大事だが、その先には「ではどんなタイプの選手を指名するのか?」という問題も出てくる。広島の苑田聡彦スカウト統括部長は「スカウト活動はチームの状況とも密接につながっている」と、こう続ける。

「我々スカウトはアマチュアのみを気にかけていればいい、というわけではありません。前年指名した新人がその年のキャンプでどこまで伸びているか。果たして一軍レベルに達しているか。キャンプが終われば、オープン戦、そしてシーズンと、指名した選手の成績や成長具合をチェックする。そこで期待通りに成長していれば、『このポジションは大丈夫だろう』となるが、そうでなければチームの将来の補強ポイントになる。ところが今年はその実戦がなかったので、どんなタイプの選手が今後必要とされるのか、どの選手を重点的にチェックするか、まだ決めにくいのです」

 米村チーフスカウトも、「例年より少ない公式戦の中で、整理選手をどう決めるか、ですね。誰かを指名すれば、誰かが戦力外になるわけですから」と話す。

 ちなみに高校生に比べて大学生、社会人の選手はそれほど判断が難しくないようだ。

「3年時に急成長する高校生と違って、大学生は3年時のリーグ戦や大会などで、おおよその評価は決まります。リーグ戦や大会がなくとも、そこまで大きく評価は変わらない」(米村チーフスカウト)

「学生と異なり、多くの社会人チームは過不足なく自主練習できる環境が整っている。給料をもらって野球をしている立場とあれば、ほっといても練習はしますからね」(山田スカウト顧問)

 “安パイ”で大学生、社会人を指名する球団が増えるのか、それとも“大穴”狙いの高校生指名に賭けるのか。今年は例年以上に各球団のスカウトが頭を痛めることになりそうだ。

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