“泥舟”五輪強行で責任の「なすり合い」がついに始まった

公開日: 更新日:

 まるで「爆弾回しゲーム」みたいになってきた。海外メディアに「変異株の祭典」(仏ル・モンド紙)とまで酷評される東京五輪。IOC(国際オリンピック委員会)や政府、東京都など主催者側は依然、強行の構えだが、全員が全員、責任のなすり合いを始めている。本番まで50日を切り、五輪スポンサーは「逃げの姿勢」が鮮明だ。

【写真】この記事の関連写真を見る(10枚)

 ◇  ◇  ◇

〈一部の五輪スポンサーが水面下で、大会を9~10月に延期することを主催者側に提案〉――。

 そう報じたのは、4日付の英紙「フィナンシャル・タイムズ」電子版だ。東京発の署名記事で、あるスポンサー企業幹部の「(延期して)ワクチン接種が進み、気候が涼しくなり、国民の反対も減ってから開催する方が得策」との発言内容を掲載した。

 しかし、大会組織委員会は公式に「そのような要求はない」と否定。そもそも、「再延期だけはあり得ない」(組織委幹部)が共通認識だ。全81社からなるIOCや組織委のスポンサー企業の一部は、本気で「延期」が可能だと考えているのか。

「記事の中で企業幹部は『(延期)提案が大きく影響するとは思えない』とコメントしている。本気で延期できるとは思っていないだろう」と指摘するのは、ある大会関係者。こう続ける。

「このまま開催を強行し、結果的に感染拡大を招くなど大失敗に終わった場合、下手をするとスポンサー企業にまで批判が及びかねない。『あの企業が五輪強行に手を貸した』と世界中から攻撃される恐れすらあります。株主から突き上げも食らうでしょう。今のうちに『延期』を提案しておけば、後になって『うちはちゃんと主催者に物申しましたよ』と主張できる。要は“アリバイづくり”でしょう」

橋本会長は組織委をただの“イベンター”と強調

 五輪スポンサーといえば、聖火リレーで伴走車両から音楽を爆音で流したことが批判の的になった。リレーコースとなったスタジアム内では、スポンサー企業以外の自販機に幕がかけられていたことが発覚。「そこまでやるか」と厳しい視線を注がれている。無理を承知で、延期くらい提案しておかねば、後々“返り血”を浴びかねないというわけだ。

 スポンサーはすっかり逃げ腰だが、組織委も責任放棄状態だ。橋本会長は4日の会見で開催の是非を巡り、「IOCや政府、東京都が難しいという判断を下せば、それはそれで応えていかないといけない」と発言。その上で「組織委は大会開催のために委託を受けている団体」と、ただの“イベンター”に過ぎないことを強調した。

 確かに決定権は組織委にないとはいえ、名指しした3者に責任を押しつける算段だ。前日に橋本会長は英BBCに「100%開催」と豪語していたのに、随分と無責任である。東京五輪関連の著書がある作家の本間龍氏はこう言う。

「本番まで50日を切っているのに、どのような形で開催するのかさえ決まっていないわけですから、スポンサーや組織委が責任逃れに走るのは、ある意味、仕方ないでしょう。本来、開催都市の首長である小池知事や開催国トップの菅首相が『コロナ対策の結果、安全安心を担保できた』『だから責任を持って開催する』などと発言すべき時期です。IOCだって、両者の発言には耳を傾けるはず。ところが、2人ともハッキリしたことを言わない。全世界の不安は募るばかりです」

 最近は、菅政権のコロナ対策に“お墨付き”を与えてきた政府分科会の尾身会長まで、パンデミック下での五輪開催は「絶対に避けるべき」と発言。もはや、われ先にと皆、離反する“泥舟”と化した「平和の祭典」……。

 これ以上、五輪憲章を傷つけないためにも潔く中止を決断すべきだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡田阪神は「老将の大暴走」状態…選手フロントが困惑、“公開処刑”にコーチも委縮

  2. 2

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  3. 3

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  4. 4

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  5. 5

    中日・根尾昂に投打で「限界説」…一軍復帰登板の大炎上で突きつけられた厳しい現実

  1. 6

    安倍派裏金幹部6人「10.27総選挙」の明と暗…候補乱立の野党は“再選”を許してしまうのか

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    79年の紅白で「カサブランカ・ダンディ」を歌った数時間後、80年元旦に「TOKIO」を歌った

  4. 9

    阪神岡田監督は連覇達成でも「解任」だった…背景に《阪神電鉄への人事権「大政奉還」》

  5. 10

    《スチュワート・ジュニアの巻》時間と共に解きほぐれた米ドラフト1巡目のプライド