高木美帆から毎食送られてくる写真で摂取量や栄養バランスを逐一チェック
金メダルは逃したとはいえ、7日のスピードスケート女子1500メートルで2大会連続となる銀メダルを獲得したのが高木美帆(27)だ。平昌の金銀銅と合わせ4個目のメダルは、冬季五輪の日本選手最多となった。「冬季五輪の申し子」ともいうべきアスリートの食の秘密を公開する──。
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さかのぼること5年前。2017年の5月から高木の「食」を支えてきた人物がいる。明治の管理栄養士・村野あずさ氏(49)だ。
翌年2月に平昌五輪を控え、宮崎合宿を終えた高木からサポートのオファーを受けた。高木は17年3月に日本体育大学を卒業。寮を離れ、ひとり暮らしを始めたことで「自炊でバランスの良い食事に苦労している」という相談だった。
「目指すべき目標に向けて課題を共有し、互いの理解を深めながら取り組んでいくという共通認識を持ってサポートがスタートしました。実は約10年前、サポートしていた陸上の福島千里選手と札幌でサッカー日本代表の試合を見に行った時、偶然、前の席に高木選手も含めたご家族が来られていて、挨拶をしたことがあった。何かの縁かなとうれしくなりました」
最初の面談から2時間後、高木が撮りためていた食事の写真が10枚、村野氏のもとに送られてきたという。
「始めてから9カ月間はほぼ毎食写真が送られてきて、その量は820枚以上。ここ1、2年は必要に応じて2週間~1カ月まとめて送る形に落ち着きましたが、現在でも海外遠征先での食事など、必要な時はタイムリーにやりとりしながら食事量や栄養バランスをチェックしています」
新型コロナウイルス感染拡大でナショナルチームの合同合宿は昨年7月上旬まで中止。練習量が減少した時期もあった。
「特に最近はコロナ禍もあって、練習環境や行動に厳しい制限があり大変だったと思います。練習前後のセルフケアの意識を高めるとともに、これまで以上にリカバリーや栄養摂取の重要性についても再確認しました。練習量が限られたため、エネルギー摂取量も通常1日当たり3000~3500キロカロリー摂取するところを、練習量やコンディションに応じてセーブする時期もありました」
コロナ対策で海外遠征での食事形態も一変
一時は膝の故障に悩まされた。思うような練習量をこなせない中で、合宿地で出された食事と「残食」を見ながら栄養状態がきちんとキープできているか、毎日の食事をチェックしたという。
コロナ対策のため、海外遠征での食事形態も一変。スタンダードだった宿泊先のホテルでのビュッフェ形式が縮小されることもあった。
「昨年11月、2年ぶりの海外遠征はとても大変な状況でしたが、高木選手の事前準備や現地での対応力は素晴らしかった。米国ソルトレークシティーではホテルでの食事は朝食だけ。昼食と夕食はお弁当の支給のみとなり栄養面の過不足を不安に思った高木選手からタンパク質の摂取量は問題ないか、と確認がありました。事前に準備していた煮魚や鶏のささみ、大豆製品などのパウチ食品を上手に活用していたこともあり、栄養価計算上タンパク質の摂取量に関しては問題なし。ビタミン、ミネラル、食物繊維の不足を補うために、ドライフルーツ、キヌア(雑穀のスーパーフード)、オートミールなど海外で手に入りやすくて手軽に栄養を取れる食品をリストアップして伝えたところ、『スーパーにキヌアがあったのでやってみます』と言って、『茹でてみたらおいしかった』とすぐに実践。米国の後のカナダ遠征では、三食ホテルビュッフェがあったものの、フレッシュな野菜が少なかったようで、送られてきた写真を見ると“茶色の食事”になっていた。厳しい外出制限がある中で、美帆さんから『現地でネットスーパーを利用できることが分かりました』という連絡があり、不足しがちなトマトなどの野菜を手に入れていました。状況を受け入れ、自分にできることはないかとすぐに行動に移すことが身についている。改めてすごいなと感心しました」
開催中の北京五輪では、厳格なバブル方式が取られ、外部への買い出しすらも認められない。平時であれば、選手村の外にJOC(日本オリンピック委員会)が日本代表をサポートする通称「ジャパンハウス」を設置。できたての日本食が提供され、日本代表の胃袋を支えてきた。しかし、今回はJOCが村内に臨時ブースを設置することで対応。それも大会直前まで明確な情報が得られなかったという。
「現地の状況はギリギリまで選手にも行き届いていませんでした。北京に入った後、『問題ないです』という連絡が来て安心しましたが……」
村野氏が最も案じていたのは、ある食材が入手できるかどうかだったという。(つづく)