広島・新井貴浩の阪神FA移籍は最後まで読み切れなかった
2007年から2年間、阪神の編成業務を担当していた私は、日本ハムでくすぶっていた若手捕手の今成亮太に注目していた。09年にスカウト課への配置転換が決まったため、その前に編成部長にこう提案した。
「日本ハムの今成は今こそくすぶっていますが、性格は明るいし、捕手として打撃もいい。ウチに合うと思うのでトレードで取ったらどうでしょう?」
その後、両球団に動きはなかったが、3年後の12年4月、今成と阪神・若竹竜士投手との24歳同士の交換トレードが発表された。阪神は10年限りで現監督の矢野燿大が引退し、メジャー帰りの城島健司が正捕手を務めていた。しかし、左膝半月板を負傷した影響で捕手を守ることは難しくなっており、補強ポイントになっていた。私の提案後、今成は「トレード候補」として挙がり続けていたが、お互いのチーム事情が合致した時、初めて成立するのだ。今成は阪神で7年間プレーし、18年まで現役を続けた。
■阪神編成部の見立ては「広島残留」
FA関連の調査も重要になる。今年はどこの球団の誰が国内FA権を取得するのか。日本の場合は「FAなんて興味ないよ。この球団に骨をうずめる」というケースが多い。本人に行使する意思があるか、この選手は阪神に必要な選手かを見極めること。春先には情報収集に動き出すため、ネットワーク、人脈を構築しておかないといけない。現場のコーチや知り合いの選手だったり、ギブ・アンド・テークで他球団の編成部の同業者と情報を交換することもある。いざ、宣言するとなった時、監督や球団に「取るべきか見送るべきか」と意見を聞かれれば、答えないといけないのも編成の役割だ。最終的には球団社長や監督が決めるのだが、FAは億単位のカネが動くことが多いため、「調査は慎重に」が鉄則だ。