ロッテ佐々木朗希の“夜明け前” たった一度「まだ投げたいです!」と感情を爆発させた日

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 4月10日のオリックス戦初回、まっさらなマウンドに立った佐々木朗希(20)は161キロの初球を後藤駿太に投げ込んだ。

 後藤はスイングするもファウル。かん高い打球音が、伝説のゴングとなった。

 初回を3者凡退、3人目の吉田正尚を三振に切って取ると、もう止まらない。二回、三回、四回、五回と三振は止まらず、プロ野球史上最多の13者連続三振。オリックスの打者がかろうじて前に飛ばした打球もことごとくアウトになり、史上16人目の完全試合達成。1試合19奪三振は同タイ記録と、トリプル快挙を成し遂げた。

 17日の日本ハム戦でも8回パーフェクト。10日の試合から、いまだ一人の走者も許していない。

 その身体能力は折り紙付き。故障を防ぐために7、8割の力で投げていても、MAX164キロを叩き出す。「令和の怪物」と名づけられたのも当然だが、しかし、子供の頃の佐々木は「誰もが目をみはる天才少年」ではなかった。

■突出した能力はないが…

 佐々木は岩手県陸前高田市出身。2011年の東日本大震災で父と祖父母を亡くし、小学校4年時に大船渡市に移住。地元の「猪川野球クラブ」に入団した。

 猪川野球クラブで育成会長を務め、佐々木を指導したことのある佐々木秀氏は「確かに身体能力は優れていました」と、こう続ける。

「バッティングもそれなりにいいし、足もそれなりに速い。ただ、何かがずばぬけていたわけではなかったんです。どの分野でもトップではないけど、平均的にレベルは高いという印象です。身長も小学校5年で160センチでしたが、もっと高い子もいたわけです。投球面で言えば、小学生時代は球速は普通の子より少しは上、という程度。制球は良かったですね。中学生に上がった頃から身長がぐいぐい伸び始めて、軟式のボールでも140キロを出すようになった。さすがにプロで完全試合なんて、当時は予想もできませんでしたよ。なにせ、ウチにいた頃は投手として育ててなかったんですから」

■少年時代は主に野手起用

 当時、猪川野球クラブの監督は佐々木をあくまで「野手」として扱っていた。試合で先発することもあったが、本業は野手だった。

「今は少年野球でも先発投手は100球くらいは投げます。でも、朗希くんは野手なので、球数を制限していた。私はスコアラーもしていたので、大体60球とか、『ちょっと多くなってきたかな』と感じたら監督に交代の合図を送っていました。そもそも、朗希くんは普段は投球練習をしていなかったんです。野手でしたから。試合前に少し捕手相手に投げるくらい。その意味では、肩ヒジに負担はほとんどかかってません」(前出の佐々木秀氏)

感情と理屈の折り合い

 進学した大船渡市立第一中で野球部に所属。2年生でエースになると、他校の3年生たちをバッタバッタと打ち取っていった。しかし、体の成長と共に成長痛にも悩まされるようになり、2年3学期の春には腰の疲労骨折が判明した。

 佐々木が中学3年時に在籍していたKWBボール(ゴム製の硬式球)の「オール気仙」の代表・布田貢氏が言う。

「3年の中総体が終わってから、KWBボールで本領を発揮し始めた印象です。それまではケガが多く、特に股関節の痛みに悩まされていました。だから、ウチでも野手としての出場がメイン。ベンチスタートもあったし、試合に登録せず、スコアを書かせたこともある。ポテンシャルはあるのに、試合に出ることすらかなわない。佐々木くんが内心、忸怩たる思いを抱えていたとしても不思議じゃありません。ただ、物わかりがいい子なんですね。不満や悔しい思いがあっても、きちんと説明されると『仕方ない』と受け入れられる」

 中学3年の夏、KWB東日本大会に出場し、勝てば全国という試合で先発。3回4失点で監督に降板を告げられると、佐々木は「まだ投げたいです!」と、大声を出して珍しく訴えた。しかし、監督に「これ以上投げたらケガの可能性もある。他の投手にも、こうした試合を経験させた方がいい」と説得されると、渋々ながらマウンドを降りた。

 大船渡高校では3年夏の県大会決勝戦で投げず、社会問題にもなった。試合当日の朝、前日の準決勝で129球を投げた佐々木の登板回避を決めた国保監督は、「本人に言ったら、笑顔で『わかりました』と言ってくれた」と話していた。しかし、決勝の舞台に立てないまま甲子園のキップを逃した佐々木は試合後、「投げたい気持ちはあった」と無念の思いも漏らしている。中学時代も高校時代も、理屈で感情を抑え込んできたのだ。

 前出の佐々木秀氏が言う。

「言い方は難しいのですが……彼の境遇や生い立ちを考えると、腐ってもおかしくないと思うんです。でも、そういうそぶりすら出さない。本当に優しい子なんです。確かに負けず嫌いな面もあります。でも、それも人一倍というほどでもない。チームメートとわいわい騒ぐことはあっても、普段は物静かなおとなしい子。むしろ、ちょっと大人びたところもありました」

 佐々木秀氏が続ける。

「当時、猪川野球クラブはその辺の原っぱとか草が生えた河川敷でノックなど練習をしていたんです。被災直後で練習するにも場所がありませんでしたから。そんな環境で、仲間たちとよく育ったな、と。グラウンドもない中でねえ……」

 24日のオリックス戦で今季5度目の先発予定。我慢と忍耐で育った右腕は、これからも伝説をつくり続けるのか。

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