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六川亨サッカージャーナリスト

1957年、東京都板橋区出まれ。法政大卒。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。01年にサカダイを離れ、CALCIO2002の編集長を兼務しながら浦和レッズマガジンなど数誌を創刊。W杯、EURO、南米選手権、五輪などを精力的に取材。10年3月にフリーのサッカージャーナリストに。携帯サイト「超ワールドサッカー」でメルマガやコラムを長年執筆。主な著書に「Jリーグ・レジェンド」シリーズ、「Jリーグ・スーパーゴールズ」、「サッカー戦術ルネッサンス」、「ストライカー特別講座」(東邦出版)など。

オシム日本代表が南アW杯で躍動するシーンを見たかった

公開日: 更新日:

「巨星墜つ」とは、まさにこのことを言うのだろう。

 元日本代表監督のイヴィチャ・オシム氏が5月1日、80歳でこの世を去った。

 第一報は、代表監督時代に通訳を務めた千田善さんが、フェイスブック(FB)で教えてくれた。その後も、FBにはオシム氏の逝去を悼む書き込みが続いている。

 改めて彼の影響力の偉大さを痛感すると同時に、的を射た「オシムの言葉」の数々を懐かしく思い出す。

多色ビブスを使った独特の練習

 2016年7月、ジェフ千葉を率いていたオシム氏が日本代表監督に就任した。

 元代表監督の練習は、色とりどりの複数のビブスを使った複雑なパターンが多く、ジェフ千葉の選手以外はなかなか理解できず、明らかに戸惑っている選手もいた。

 練習場のスタンドから取材している記者にとっても分かりにくいものだった。せめてもの救いは、大熊清コーチの声が大きく、スタンドまで良く通る声に助けられた。

 前任者のジーコの練習は、ひらすら紅白戦をやるか、シュート練習の繰り返し。記者もカメラマンも正直、手持ち無沙汰になってしまい、練習が終わるまでパソコンでゲームをしているメディア関係者もいた。

 しかし、オシム氏の場合、練習メニューにどんな意味があるのか、どんな意図が隠されているのか、じっくりと考えながら注視しないと「置いていかれて」しまう。

 練習取材で記者やカメラマンも、選手たちのように常に緊張を強いられ、無駄口を叩く暇もなかった。

 記者同士が「この練習の意図は○○○○○にあるのではないか?」などと意見をすり合わせたものだ。

常に「頭を使う練習」がベース

 オシム氏の練習は、とにかく「頭を使う」ことがベースになっていた。選手たちも、練習が終わると「頭を使い過ぎて」心身ともに疲弊していた印象がある。

 練習の中で筆者が当時、どうにも理解できないものがあった。

 ハーフコートを使った2対2だった。広大なスペースがあるため、パスしなくてもボール保持者の足が速ければ、そのままドリブルで突進していってゴールまで到達できる。

 この練習中にオシム監督が突然、ハーフラインで2対2を見守っていた羽生直剛らに「攻撃に加わりなさい」と指示したこともあった。

 この練習の意味を理解したのは、12年後の2018年ロシアW杯の決勝トーナメント1回戦・ベルギー戦だった。

 2ー2で迎えたアディショナルタイムにデ・ブルイネがGKからスローされたボールを受け、単独ドリブルで日本ゴールに迫り、山口蛍を引きつけて右サイドに展開してから決勝点を奪った。

 このデ・ブルイネのプレーは、まさにオシム監督が練習でやっていた2対2の延長線上にあった。

 自陣から全速力で駆け上がり、右サイドからのラストパスを左足でダイレクトで合わせて決勝点を決めたシャドリのプレーは、練習中に「攻撃参加した」羽生の動きに通じるものだ。

「あぁ……オシム監督は、こういったプレーもちゃんと想定し、練習に取り入れていたんだな」と実感したものだ。

オシム日本が南アW杯に出ていたら……

 オシム氏は、就任した06年は自分のやりたいサッカーの土台作りのために「練習意図を熟知している」ジェフ千葉の選手を多く起用した。

 翌07年は国内組と海外組の融合を図るために中村俊輔(セルテック)、高原直泰(フランクフルト)、松井大輔(ルマン)らを招集した。

 この第1段階と第2段階を経て、第3段階では「アジア予選を勝ち抜く」チーム作りを、そして最終第4段階では「W杯本大会で勝てる」チーム作りを想定していたそうだ。

 残念ながら第2段階終了時点の07年10月17日のキリンチャレンジカップ・大阪でのエジプト戦(4ー1)が最後の試合となってしまった。

 彼がもし南アフリカW杯の日本ベンチにいたら……オシム日本代表が、桧舞台で躍動するシーンが見たかった。彼らはどんなサッカーを展開し、世界を驚かせたのだろうか。

 志半ばで病に倒れたことは、返す返すも残念でならない。今はただ静かにご冥福をお祈りしたい。

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