1横綱1大関時代には望まれない 土俵の名脇役だった長谷川ら“最強関脇”の後継者
師匠も惜しんだ32歳での引退
98年九州場所13日目の貴乃花戦は、琴錦の真骨頂として語り継がれる。優勝して「今場所は一度も引き技を使っていないでしょう」と胸を張ったのも、今では考えられない。横綱3代目若乃花と重ねた激しい攻防もまた、最近のファンには別の競技に見えるだろう。
2度、3度と大関昇進のチャンスはあったが、ムラっ気や連敗癖もあって逃し、2000年秋場所中、32歳で引退した。
「大関になれなかったのは悔しいけど、稽古が足りなかった」と語った。稽古せずにできる取り口ではなかったが、「若貴」に曙、武蔵丸(現武蔵川親方)、貴ノ浪らに大関として割って入るだけの稽古ではなかったとの意味か。師匠の佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜)は、「まだ取れるのに」と惜しんだ。
名脇役として土俵を沸かせた力士は多いが、1横綱1大関の番付で関脇・小結にひしめく力士たちを見て、新たな「最強関脇」の誕生を望む人はいないだろう。
元長谷川は、09年名古屋場所で日本相撲協会の65歳定年を迎えた。場所中の愛知県体育館内で、大関への壁を破れずにいた稀勢の里(現二所ノ関親方)に「頑張ってよ」と声をかけ、背中をドンと押したという。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ) 1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。