なぜ赤坂大歌舞伎は「ドラえもん」借用を明示しなかった
冒頭のシーンが繰り返されるが、今度の太郎は性格が異なっていた。太郎は前の記憶を持ったまま、前とは異なる人生を歩み、そしてまた……と劇中、3回ループする。この芝居はどうやって終わるのだろうと引き込まれる。見事な結末を迎えるが、それは真の結末ではない。だから、幕は下りないで終わる。観客が劇場を出た後も、太郎は延々とループしているはずだ。
台本はループSFのルールをしっかりと踏んでおり、破綻がない。セリフも細部まで練られ、それに役者が十分に応えている。実に面白い芝居だった。それだけに、「ドラえもん」のキャラクターを借用していることを明示していないTBSと松竹の姿勢は残念だ。著作権上の手続きを踏みたくないがためであろうが、その姿勢は疑問だ。
(作家・中川右介)