独立後初の独白 小泉今日子「私が舞台にのめりこむまで」
でも、当時は芝居に出るなんて考えもしませんでした。もちろん、テレビドラマには出ていましたが、演出家の言う通りに動いていただけ。そんな時に撮影現場では与えられた役から突き抜けて、自分たちで独自の面白い役作りをしている役者さんたちがいまして、彼らの共通項が小劇場出身。でも、私には無理、声も小さいし……と尻込みしていました。
それから約10年後の1997年のことです。今冒険しないと、前に進めないと思い、もし舞台のオファーが来たら絶対に断らないで挑戦しようと思っていたところに岸谷五朗さんと寺脇康文さんがプロデュースする「地球ゴージャス」の舞台のお話が来たんです。純然たるエンターテインメントで、出演者も数十人の大所帯。稽古も、まず柔軟体操から教わって、まるで毎日が学校の部活みたいでとても楽しいデビューでした。
舞台にのめりこんだのは、98年、岸田賞作家で俳優でもある岩松了さんの「水の戯れ」という作品との出合いでした。互いに心に秘めた思いを抱く男と弟の妻、そして男の兄の三角関係を描いた恋愛ドラマ。人間って話している言葉と本心が違うことがあるじゃないですか。嘘と真実が共存しているというか、セリフの裏にある矛盾した心理を同時に観客に見せるということは演劇しかできない表現なんだと知りました。