マネジャーをダミーにして人混みの中を駆け抜けたことも…
大西結花編 <9>
今では電車にも乗るし、路線にだってそれなりに詳しくなっている。しかしアイドル時代はまるで分からなかった。
上京して仕事をし始めた頃は普通にバスや電車に乗っていた。デビュー作となったドラマのリハーサルはテレビ局のリハーサル室で行われ、高校の最寄り駅から電車を乗り継いで行ったのを覚えている。通学も電車を使っていたが、あるとき他校生に見つかり、乗った電車の中で男子学生数人に囲まれてしまった。それ以来、危険だと判断した事務所が通学はもちろん、仕事先への移動も車でするようにと決めたのだ。
それからというもの、公共の乗り物に乗る機会が減っていった。新幹線と飛行機は頻繁に利用していたけれど、JR、地下鉄、私鉄となると、まるで見当がつかない。東京に今日来たばかりの人とほとんど変わらない程度の知識だったと思う。もう何年も暮らしているのに。
この頃に友だちに言われたことがある。
「あなたは東京の人じゃないのに、なんでそんなに知っているの?」と。
私が道路や方向に詳しいので、驚いたというのだ。毎日車で移動し、それこそ日本中を走り回っていたから、いつの間にかよく行く地域の交通事情に通じるようになっていた。都内も、渋滞を逃れる裏道まで覚えていた。