“一番美しい役”をやらねば…玉三郎が抱く現実への危機感

公開日: 更新日:

 白雪姫に嫉妬し殺そうとする母「野分の前」を演じるのは26歳の中村児太郎。役者の実年齢は母娘で逆転しているが、児太郎のふっきれたかのような怪演に近い演技に、目を見張る。

 ここ数年、12月の歌舞伎座は、玉三郎が座頭となり、一種の公開レッスンとして若手の女形を指導する月となっている。今年も昼の部の「壇浦兜軍記」はその趣向で、玉三郎、児太郎、梅枝が阿古屋をトリプルキャストで競演している。

 そういう背景があって、玉三郎は「白雪姫」を企画し、演出し、主演した。今回のエチュードのテーマは、児太郎に「私はいちばん美しい女」と劇中で何度も叫ばせることで、女形に必要な自己陶酔の感覚を体験させることではないか。自分がトップであると表明することから、トップへの道は開けるのだ。遠慮してはいけない。

■「ナウシカ」やってる場合なのか?

 同時に、「一番美しい役」を、いまだに自分がやらなければならない現実への危機感も、玉三郎にはあるだろう。「次」が育たない。自分を抜いてくれる者の登場を、この名女形は待っている。

 その「次」の立女形の候補者である菊之助と七之助は、今月は「風の谷のナウシカ」だ。「そんなこと、やってる場合なの?」と玉三郎は思っているような気がする。あくまで私の妄想だが。

(作家・中川右介)

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  2. 2

    「救世主にはなり得ない」というシビアな見方…ピーク過ぎて速球150キロ超には歯が立たず

  3. 3

    大谷翔平は来季副収入100億円ガッポリ、ド軍もホクホク! 悲願の世界一で証明した圧倒的経済効果

  4. 4

    橋本環奈のパワハラ疑惑のこと? 嵐・二宮和也の正月番組のワンシーンが視聴者の間で物議

  5. 5

    パワハラ疑惑の橋本環奈はやはり超多忙?マネジャーが6年前「あなたに想像出来ないほど環奈は忙しい」とファンに伝えていた

  1. 6

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 7

    闇バイトの応募者たちは一体何者なのか?若者に自重呼びかけるTV報道番組の「盲点」

  3. 8

    がんの4割がアルコール消費と関係? 米国がん協会の新たな研究結果に騒然

  4. 9

    日本一DeNAが「巨人に惨敗」の屈辱晴らす大補強!売上270億円超で原資に不安なし

  5. 10

    農相・法相の後任人事でも石破カラー封印…「党内融和」優先に世論ますますがっかり