小野みゆき“空白の20年”を語る「引退すると思っていた」

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 本格的な演技は実に20年ぶりだ。資生堂のCMでツイストの「燃えろいい女」に乗って鮮烈なデビューを飾ったのは40年以上前のこと。無名の新人だった小野みゆき(60)は、その後もトレンディードラマ映画、バラエティーで存在感を放ったが、いつからかその姿は表舞台から消えていた。一体、何があったのか。“空白の20年間”とその素顔に迫る。

 ◇  ◇  ◇

「このまま芸能界を引退するんだろうって思っていました」

 中性的な顔立ちに大きな瞳、還暦を迎えたとは思えないスレンダーな体形。そして、全身から醸し出す女優然としたオーラ。「引退」の2文字は全然似合わないが、今週24日に公開となる映画「クシナ」(速水萌巴監督)のオファーがある前までは、ほぼ開店休業の状態だったという。

「結婚と出産、子育てという環境の変化が大きかったですね。1998年に結婚して、夫の仕事の関係でしばらく米国と日本を行き来する生活を送っていました。事務所は仕事と家庭の両立ができると考えていたようですが、異国の地で子供を預け、飛行機で行き来する生活は、今以上にさまざまなリスクや問題があった。とてもじゃないけど仕事ができる状況ではありませんでした」

 結婚を機に事務所を辞めたいと申し出たが、当時のマネジャーは「籍は置いておいたほうがいい」とアドバイスした。

「仮に休業状態でも、海で思いっきり日焼けしたり、思いつきで髪の毛をバッサリ切ったりするのはできないと覚悟を決めました。カメラの前で演技しなくても、常に仕事に対する義務感は持ち続けていましたね」

■フェイクニュースさえも…

 ネット上では、元夫とされる人物についてや未入籍の母といった書き込みも並ぶ。「これだけ長い間仕事をしていなければ、どんなふうに言われてもおかしくないですよね(苦笑い)。ですが、事実と違った情報でも、あえて否定する必要はあるのかしら。何が真実で何が嘘か。あいまいな方がミステリアスでいいのかも」。ちゃめっ気たっぷりに話すその表情からは、フェイクニュースも楽しんですらいるようだ。

正真正銘のスッピンで撮影「皺を撮って欲しい」

 最新作「クシナ」は深い山奥で女性だけが暮らす男子禁制の村が舞台。演じたのはその秘密の共同体を束ねる村長だが、撮影にはノーメークで挑んだという。ファンデーションを薄く塗り、眉もマスカラも自然体に近く見せるのではなく、正真正銘のスッピン。使用したのは無色の日焼け止めだけだ。

 女性であれば、リモートワーク中であってもPC画面に映る顔を盛ろうとする。スクリーンに素顔をさらすことに抵抗はなかったのか。

「一切ありませんでした。だって絶対的なリーダーシップを持つ人間が、お手入れの行き届いた肌をしていたら、何に時間を費やしているんだって思いませんか? ただし私の顔は、疲れてクマができると目元の陰影がハッキリと出てしまい、濃いメークをしたように見えてしまうのです。むしろ素顔が裏目に出てしまうという心配はありましたが、杞憂に終わりました。ノーメーク用に見せるメークでカメラテストしたら、皺の部分にファンデーションが入ってしまいバレバレで(笑い)。監督からの要望でもあり、皺を美しく撮ってもらうには素顔が一番だって確信が持てたんです」

資生堂CMへの大抜擢…ムッチムチの新人がなぜ?

 デビューのきっかけとなったのは、有名なCM。前田美波里、真行寺君枝、山口小夜子に続いて1979年夏の資生堂のCMへの大抜擢だった。当時18歳。華々しくデビューを飾ったが、“事務所のイチオシ”には程遠い存在だったという。デビュー当初から所属するオスカープロモーションは70年の設立時から若者のファッションや流行の発信地だった表参道に事務所を構え、“モデルならオスカー”といわれるブランド力を持っていた。身長の高かった小野はスカウトマンの目に留まり、所属することにはなったのだが……。

■資生堂が求めるイメージに近い

「スタイル抜群の売れっ子モデルがそれはもう、たくさん所属していました。私は有望視されるには程遠い、無口で暗くてムッチムチな女の子(苦笑い)。資生堂のCMも新人速報の欄に慣例で載っていた顔写真をたまたま見た方が、『資生堂が求めるイメージに近いかも』と口利きしてくださった。それで最終のカメラテストに飛び入りで参加させていただくことになったんです」

 バレーボール部で青春を謳歌していた体育会系女子。千載一遇のチャンスに自身の夢をかけてみるのだが、鎖骨を骨折し、直前まで入院生活を強いられていた。

「動かないものだから、ベスト体重から10キロ近く増えていて……。それでもヒョウ柄のハイレグで颯爽と歩く人たちに交じって、急ぎで揃えた何の変哲もない黒の水着でオーディションを受けました。会場にはすでに名前が売れ始めている子もいて、私の姿を見て唖然としているのが分かりましたね。そんな中で、なぜ受かったのか? 私にも分かりません(苦笑い)」

 CMのロケ地はカリブ海・バージン諸島。ツイストの「燃えろいい女」が流れる中、ショートのカーリーヘアで真っ赤な「カニ目」を運転し、“熱いまなざしの女”になりきって話題を呼んだ。

「実はあのロケは雨期と重なって現地に2カ月半近く滞在したんです。今思えば、なんてぜいたくな仕事だったんだろうと思いますが、ド新人だった私には何もかもが初めて尽くしで、楽しむ余裕のかけらもありませんでした。メークさんから『みゆきちゃんは顔の産毛も剃ったことないの?』と驚かれる始末で、いまだにからかわれるんですよ」

エプロンつけてたくあんを切るような役が来ない

 CMに続いて、菅原文太主演の映画「トラック野郎・熱風5000キロ」(79年)のマドンナ役で脚光を浴び、映画やテレビドラマと活躍の場を広げ、「女優・小野みゆき」として売れていく。本人いわく子供の頃から「悪目立ちするタイプ」。169センチの長身を武器にコマーシャルモデルを目指したが、顔と名前が売れ、女優として活躍するようになると、あるジレンマを抱えることになった。

■OLや方言をしゃべる役、母親役は一度も演じたことがない

「皆さんに名前を知ってもらえたのは大成功で、ありがたい話。ですが、居心地の悪さみたいなものは感じていました。もともと引っ込み思案で自分に自信を持てるタイプでもない。それなのにいただく役は、自信満々で誇り高い女性が多かった。英語も広東語も堪能なお金持ちの華僑の娘で、高級フレンチで赤ワインの入ったグラスをクルクル回すみたいな。殺し屋の役は来ても、OLや方言をしゃべる役は一度も演じたことがありません。母親役もできなかった。当時の事務所の社長からは『みゆきちゃんはエプロンつけて甲斐甲斐しくたくあんを切っているような役が来ないね。でも、それはそれでいいんじゃないかな』と励ましてもらっていましたが、役柄の幅が広がらないことへのジレンマはありました」

 そんな世間が抱くイメージを壊すきっかけとなったのが、フジテレビ系「とんねるずのみなさんのおかげです。」でデビルマンのパロディーを演じたことだった。目の周りを黒く塗り囲み、全身着ぐるみで“デビルタカマン”に扮したりした。いまでこそ役者やアイドルがコスプレ姿で頭をはたかれるのも珍しくはないが、今から30年以上前の話である。

「緒形拳さんや大原麗子さんといった大御所が出演されていた番組でしたし、デビュー当時から『オファーいただいた仕事はなんでもやる』と厳しく教えられてきたこともあります。それに子供の頃のあだ名がデビルマンだった身としては、やるしかないでしょう?(笑い)」

 プロ根性というか、肝が据わっている。

「ですが、この番組の現場は映画やドラマとなんら変わらず、ピーンと張りつめた空気の中でだれも笑ったりせず、黙々と淡々と撮影していたんです。特撮のような凝ったセットだったのでワンシーン撮るのも時間がかかり、体力や気力を温存しようと休憩中の出演者は無口になる。木梨(憲武)さんとは番組に出演するようになって1年近く、セリフ以外にお話しすることはありませんでした。とにかく私は台本通りに演じる。お芝居と同じようにホンをきっちり覚えて、石橋(貴明)さんが作ってくださるアドリブも言われた通りに一生懸命やる。真剣かつ真面目に作っていたからこそ、視聴者の方々は面白がってくださったんだと思います」

 20年ぶりの本格的な芝居で初めて等身大の母親役を演じた。今後の活動は?

「演技に対しての距離感は昔から変わらない。インする前はどうしよう、できるかなって不安しかありません。でも、細々とでも続けていけたらいいですね。そのためにはまず元気でいなくちゃ。いつオファーをいただいても大丈夫なように健康であり続けたいですね」

 根は、やはり女優だ。

(取材・文=小川泰加/日刊ゲンダイ

▽おの・みゆき 1959年11月17日生まれ。静岡県出身。1979年、資生堂サマーキャンペーン「ナツコの夏」でデビュー。主な出演作に「トラック野郎 熱風5000キロ」「戦国自衛隊」「あぶない刑事」「ブラック・レイン」「ハサミ男」などがある。今月24日公開の映画「クシナ」(速水萌巴監督)では自身初の母親役を演じている。

▽映画「クシナ」あらすじ…深い山奥に人知れず存在する、女だけの“男子禁制”の村。村長である鬼熊<オニクマ>(小野みゆき)のみが、山を下りて収穫した大麻を売ることで、28歳となった娘の鹿宮<カグウ>(廣田朋菜)と14歳のその娘・奇稲<クシナ>(郁美カデール)をはじめとする村の女たちを守っていた。ある日、人類学者の風野蒼子(稲本弥生)と後輩・原田恵太(小沼傑)が、村を探し当てる。鬼熊<オニクマ>が、下山するための食糧の準備が整うまで2人の滞在を許したことで、それぞれが決断を迫られていく。

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