田村淳さん「遺書を書いたら大事なことか明確になった」
田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)
「死」について話すことのタブーを取っ払いたい。人生の終い方にもっと多様性や選択肢があっていい――。そんなことを長年考えてきたのだという。実行に移すため、昨年4月、大学院生になって研究を開始。ITベンチャーを起業して、今月「遺書動画サービス」をスタートさせた。「遺書の概念を変えたい」と意気込むこの人を直撃した。
◇ ◇ ◇
――遺書を動画で残す。サービス名の「ITAKOTO」とは?
テレビのロケで、山形の「イタコ」の方が死者のメッセージを伝えたところ、目の前の男性が涙して「明日から頑張って生きていけます」と言うのを目の当たりにしたんです。科学的根拠があるのかどうかは分かりませんが、すごい力だなと思いました。「イタコ」が死者のメッセージを伝えるという意味と、あなたがこの世に「いたこと」を証明するという造語です。動画なら声や動きが残るので、より思いが伝わるんじゃないかと思って。
■母親の「延命治療しないで」がきっかけ
――遺書の概念を変えたいということですが、きっかけは?
20歳くらいから、毎年、母ちゃんから「私に何があっても延命治療しないでね」と言われてきて。自分が若いうちは気にも留めてなかったんですけど、母ちゃんも自分も年齢を重ねて、自分に子供ができた時に、昔から母ちゃんが言っていたことって、本当に大切なことだと気づいたんですよね。実はいま母ちゃんは病床にいるんです。「延命治療しないで」と聞いているので、ちゃんとその通りやれていると思います。
――毎年、ってお母さまの誕生日とかに言われていたのですか?
そうです。「おめでとう」と言うと「延命治療しないでね」って言ってくるので、「なんでこんなめでたい時に、死にまつわることを言うの」って聞くと、「こうやって言い続けないと、あんたがジャッジしなければいけない時にジャッジできなくなるから」って答えるんです。年々、「ああ、そういうことか」と分かってきました。
――それで具体的に動きだした。
何かサービスとして形にしたいなと思ったタイミングで、イタコに出会ったり、娘が生まれたり、自分で遺書を書いたりした。もっと死について議論した方がいいのに、なかなかしゃべってくれる人がいなくて。ネットで調べると、青山学院大の住吉雅美教授(法哲学)にたどり着いた。住吉さんは、タブー視されていることこそ、議論の余地がたくさんあるとおっしゃってて、すごく感銘を受けて、青学大を目指したんです。
――「AbemaTV」で番組化された青学大の受験には、そういう背景があったんですね。
バラエティーにされちゃったんで、「なんで俺の思いをくみ取って、放送してくれないの」と言ったんですけどね。受験生のみんなや、大人になっても勉強したい人の気持ちをそぐ形になって、申し訳なかったといまでも思います。
――お母さまの「延命治療をしないで」というメッセージの意味をどう理解したのでしょう?
番組で尊厳死や安楽死の取材をして、死が近づいてくればくるほどタブー感が増すというのが分かったんです。健康で元気なうちじゃないと、自分の最後、どうやって人生を終えるかという話はできない。だから、元気な時にそういったことを残せるサービスをつくりたいと思いました。
最初は遺書って、人のために残すものだと思っていたんですけど、自分で書いてみると、自分自身に返ってくる。死ぬ気になって書いているから、大事なことが明確になって、生きる上で、すごく楽になったんですよ。それまでは「これも、あれも」って考えていた人生が、遺書と向き合って「一番大切なのはこれだ」となった。母ちゃんには感謝しています。
――今は慶応大大学院のメディアデザイン研究科(KMD)で研究されている。
青学の受験に失敗した後、遺書を残すサービスを形にするため、クラウドファンディングを立ち上げたんです。でも、思いばかりが先行してイメージを描いてもらえず、目標1000万円のところ、600万円しか集まらなくて頓挫しちゃった。とはいえ、協力したいという人が600万円分いたわけだから、きちんとその人たちに向き合いたいと思った。
そんな時に、社会学者の古市憲寿さんから「KMDに行けば」と勧められ、高卒の俺が大学院に行けるのかと思いましたが、大学相当見込みがもらえれば受験できるということで。少しずつ前に進んでいったんです。
――どんな研究をしているんですか。
「遺書」という言葉を口に出すだけで憚られるみたいな空気があったんですよ。教授も最初は「どえらいテーマを選ぶな」という反応で。思いは分かったから、まずは遺書を書いたことのない人に書いてもらったら、と教授に言われ、ワークショップをやってみた。すると、最初はみんな、遺書に対してネガティブなんです。でも書き始めると、おえつし出す人もいて、書き終わった後はみんなすっきりしていた。アンケート結果でも生き生きしていました。
――そんなに変わるんですか。
85%の人が遺書に対する印象が変わったとか、もう一回書きたいとか、こんなに自分に向き合えるとは思わなかったとか、すごくポジティブでした。でも一方で、死に向き合ってつらくなった、明日から暗い気持ちで生きます、という人がごく少数ながらいたのも事実。そういう人たちにも対応できたらなと。多くの人に、自分の人生と向き合うツールとして遺書を使って欲しいと思いました。