著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<12>「相談がある」電通上司が社員食堂で告げた言葉の真意

公開日: 更新日:

その頃の淋しさ、切なさが写っている

 電通を辞めて、その退職金でアサヒペンタックス6×7を買ったんだよ。6:7のあの比率がいいからね、今でも使っているよ。アサヒペンタックスに55ミリレンズをつけて、三脚をかついで、“トーキョー・アッジェ”と称して、東京の街を歩き出した。どこをどう歩くとか何を撮るとか決めないで、あてもなく彷徨うって感じで、あちこち歩いてたね。(“アッジェ”は、1857年生まれのフランス人写真家ウジェーヌ・アジェ。1927年死去。41歳で写真撮影を始め、パリとその周辺を30年間撮り続けガラス乾板8000枚を残し、歿後に高く評価される)

 撮った写真は月光荘で買ってきた画用紙が冊子になったのに貼り付けて、自分だけの写真集を作ってた。最初は「東京の、秋」というタイトルだったんだ。それから1年ぐらい撮り続けて、秋になって、通して見たら、「東京の、秋」じゃない、「東京は、秋」という感じだったんだよね。それで、写真集を出版するときに、「東京は、秋」(1984年)にしたんだ。

 秋というのは、やっぱりセンチメンタルなんだよね。電通を辞めてすぐの頃で、フリーだなんて強がっていたけど、淋しかったか切なかったか、そういうのが写っちゃってる。撮ることと、人生が、同じだっていう感じがするんだよね。

(構成=内田真由美) 

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