勅使川原郁恵さん 元“ショートトラックのプリンセス”は乳幼児向けセミナーを開設
この4日から開幕する北京冬季五輪。日本代表の活躍を期待したいが、表彰台の有力種目のひとつがショートトラック・スピードスケートだ。そのパイオニアとして1998年長野、2002年ソルトレークシティー、06年トリノと、3大会連続で出場した勅使川原郁恵さん。現役時代はキュートな笑顔から、“ショートトラックのプリンセス”とも呼ばれた。引退から16年。さて、今どうしているのか。
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「5年前の5月に、乳児から7歳前後までのお子さんを持つ親子を対象にした一般社団法人ナチュラルボディバランス協会、略して『なちゅぼ』を立ち上げ、私は代表理事を務めています。ここ2年ほどは新型コロナの影響で最小限の活動しかできなかったのですが、今年は感染状況を見ながら定期的にイベントを行う予定です」
勅使川原さんと会ったのは都内・代官山のカフェ。引退後、一時肩まで伸びていた髪はショートカットに戻り、“テッシー”の愛称で呼ばれていた現役時代を思い起こさせる。
「多感で体も心も日に日に成長する幼児期は人間形成の上でも健康面でも一番大事な時期。『本物の運動をたくさん体験』『安全で適正な食事』『自然に触れ、対話する』『子供の自由度を尊重』をテーマに、子供たちだけでなく親御さんも一緒に楽しみながら理解を深めてもらうのが当協会の趣旨です」
講師には、本人はもちろん、冬季五輪5回出場のスピードスケート・岡崎朋美さんをはじめ、女子バレーボール・斎藤真由美さん、女子水泳飛び込み・中川真依さんらオリンピアン、元日本代表、そして大学の専門家らがズラリ。これまで都内周辺の公園や畑、公共施設などでイベントを開催してきた。
「今年からは千葉市にある古民家や都内・日本橋をメイン会場に、岐阜県、愛知県、兵庫県淡路島でも計画中です」
その一方、正しい知識を身につけるため、健康ウオーキング指導士、睡眠改善インストラクター、食育インストラクターなど健康と食、休養に関する22もの資格を取得。学習意欲は高い。
また、「新型コロナによる運動不足解消を目的に」ユーチューブチャンネル「おとなこども運動」を20年3月からスタート。小3の長男、6歳の次男とともに自宅でできる簡単な運動を紹介している。
「五輪独特の雰囲気にのまれないで」
出身は岐阜県岐阜市。消防士だった父、学生時代は陸上競技で鳴らした母の間に生まれた3人姉妹の末っ子だ。
「父はスピードスケートをしており、岐阜県スケート連盟公認のコーチでした。それで私も3歳から姉たちと滑っていました」
素質の良さと熱心な練習が功を奏し、小学1年の時に県大会・小学校低学年の部で優勝。小学5年から屋内リンクで一年中練習に打ち込めるショートトラックに転向するやメキメキと頭角を現し、中学2年でショートトラック全日本選手権総合優勝を果たした。
「練習場が名古屋市内にあったため、練習時間を確保したくて高校進学に合わせて名古屋に引っ越しました」
そして高校3年だった96年の世界ショートトラックジュニア選手権では日本人唯一、総合優勝の快挙。若くしてショートトラック界を牽引した。98年2月、念願の長野五輪に出場。500メートル6位、1000メートル5位、3000メートルリレー4位と惜しくも表彰台には届かなかったものの主催国代表にふさわしい活躍ぶりだった。
「長野では試合もさることながら、海外選手との交流が一番の思い出。中でも選手食堂で、臼と杵を使った本格的な餅つきをしたのは忘れられません。日本の伝統的な文化を見て体験できて、海外の選手はとても喜んでいました」
その後、02年ソルトレークシティー(米国)、06年トリノ(イタリア)の冬季五輪に連続出場。やはり表彰台は遠かったが、颯爽とリンクを駆ける勇姿はファンの記憶に深く刻まれた。
トリノ五輪を最後に競技生活にピリオドを打ち、引退後はスポーツキャスターに。同年、NHK・BS2の「街道てくてく旅~中山道完全踏破」でリポーターをした他、今も各種講演会のゲストとして全国を駆け巡っている。
「北京五輪ショートトラックは、男子5000メートルリレーが表彰台を期待できます。注意すべき点は、五輪独特の雰囲気にのまれないで冷静な判断をすること」
ショートトラックの各競技は5日から始まっている。
(取材・文=高鍬真之)