追悼・松鶴家千とせさん 糟糠の妻の支えで克服した「対人恐怖症」
しかし、人気は長く続かなかった。新しいネタが続かなかったこと、そして、芸人からの嫉妬に参ってしまったのだ。千とせが次に予定されているテレビ出演に間に合わないように、他の芸人がわざと長く舞台をするなどということがあったという。仕事は激減し、舞台に上がることさえ怖くなった。
「お客さんが隣同士で何かしゃべっていると、はっとするんです。俺の悪口を言っているんじゃないかって。自分のしゃべりよりもそっちが気になるから、ネタが進まない。気がついたら、汗がダラーッて流れている。他の客がそれに気がついて“おまえ、何をやっているんだ”と言われると、なお焦っちゃう」
妻と病院に行くと、対人恐怖症と診断された。治療薬はない、人前に出て慣れることだと言われた。
「すると女房は銀行から二百万円下ろして競馬場や競艇場に連れていった。最初は嫌でしたよ。なんで仕事していないんだって言われる。そうすると汗をかいちゃう」
妻はそうした男たちに立ちふさがり「あんただって、こんなところ来ているんだから、仕事していないでしょ」とたんかを切った。二百万円を使い切る頃には、対人恐怖症は治ったという。