【特別寄稿】映画評論家・前田有一氏「映画はカルト宗教をどう描いたか」
旧統一教会内部が味わえる「愛のむきだし」
報道された山上徹也容疑者の境遇とも、どこか類似しており驚かされる。ラストシーンは一見わかりにくいが、いま改めて見れば、その先に広がる果てしない絶望を感じられる、壮絶なものだとわかるだろう。
監督の実体験ならではの、旧統一教会内部のリアリティーを味わえるのが「愛のむきだし」(09年、日本)。ベルリン映画祭でカリガリ賞など2部門を受賞した作品で、カルト教団に洗脳された、血のつながらぬ妹(満島ひかり)を取り戻そうとする男の物語を中心に描く、約4時間の大長編だ。
園子温監督は20代のころ、生活苦から統一教会に身を寄せた経験があり、脱出時にはカミソリの刃を送り付けられるなど相当な困難と恐怖を味わったという。その経験を本作にも反映させたと語っているが、訴訟対策のため、作中のカルト団体のモデルには、あえて多数の宗教団体を取材して混ぜたという。それでも、すっとんきょうで非現実的な演出・脚色に満ちたこの映画の中で、教団内部の様子だけはどこか異様な現実味を感じさせるのは間違いのないところだ。
■「カルト集団と過激な信仰」第5話「世界平和統一聖殿」は必見
アメリカでは、さらなるリアルを追求するドキュメンタリーシリーズが作られていて「カルト集団と過激な信仰」(18年、米国)のタイトルで日本でも各種配信チャンネルで見ることができる。
内容は、世界的なカルト・新興宗教団体に対し、エミー賞受賞記者のエリザベス・バーガスが直撃インタビューで迫るガチンコスタイルの取材番組だ。とくに今見るべきは第5話の「世界平和統一聖殿」だろう。
ここはサンクチュアリ協会の名でも知られ、小銃を神聖視し子供たちに実銃の扱いを教えるなど、最も過激な統一教会「分派」組織といわれる。設立者の文亨進は旧統一教会の教祖、文鮮明と韓鶴子の7男。教団内ビデオなどでは、銃弾で作った冠をかぶった異様な姿で攻撃的な演説を見せるが、終盤のインタビューではバーガス氏の厳しい質問にたじろぐなど、どこか気弱そうな姿も見え隠れする。貴重な“本物映像”として一見の価値がある。
トランプ元大統領の支持者としても知られる文亨進は、21年の米国議会議事堂襲撃事件にも参加し世間をにぎわせたが、こうしたカルトによる社会的影響を描いたドキュメンタリー映画が「フィールズ・グッド・マン」(20年、米)だ。
ある漫画家が生み出したカエルのキャラ“ペペ”が、なぜか白人至上主義者に悪用され、ネット上で果てしなく拡散。いわゆるネット右翼のシンボルとして、ついにトランプ大統領を誕生させるに至った歴史的事実を明らかにする。
ある種の思想主義を持つもの同士の「居心地のいい世界」をネット上に用意し、おのおのの自己実現欲求を満たしてやることで、強烈な結束を実現する。オンラインながら、まさにカルトの手法であり、同時に日本でもほぼ同じ構図が、安倍政権下で繰り広げられていたことに気づかされる。
最後に紹介するのは「暗号名 黒猫を追え!」(1987年、日本)。「スパイ防止法」の制定推進のため製作された映画だが、事実上、文鮮明が創設した政治団体“国際勝共連合”による作品ということで、上映反対運動が巻き起こったいわくつきの作品だ。映画は大衆への影響力が強いジャンルなので、ときには当事者側がプロパガンダに利用する一例といえるだろう。
とはいえ、スパイ防止法なんてものが日本に導入されたら、真っ先に逮捕されるのは北朝鮮の金王朝とも蜜月だった教団から多数の秘書を受け入れたといわれる自民党議員たちではないのか。
これではまさに本末転倒、ブラックジョークを地で行く話というほかない。