映画『ナワリヌイ』は必見 「諦めない」と答える明朗さがせつなく、逆に救いでもある。
ナワリヌイ氏を襲った度重なる災いは苛烈きわまりないものだ。2018年、前回の大統領選への立候補表明が、過去の有罪判決を理由に拒否された。20年8月にはロシア連邦保安庁(通称FSB。プーチン氏の出身母体でもある)が仕掛けた疑いが濃厚な毒物投与による暗殺未遂事件で、一時意識不明の重体に。メルケル独首相(当時)の医療支援申し出によりドイツ国内で治療を受けたが、21年1月、ロシアに帰国した際に空港で拘束され、同時に過去の有罪判決の執行猶予が取り消された。収監中の22年3月には詐欺や法廷侮辱の罪で禁錮9年、翌23年8月には過激派組織を創設した罪で禁錮19年の判決を受けている。12月にモスクワ東方からロシア北極圏のシベリア北部の刑務所に移送されたところだった。
■「命を狙われたのは、私たちが信じられないほど強いから」
ところで、昨年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞映画『ナワリヌイ』はご覧になっただろうか。そこで観ることができるナワリヌイ氏は華があり(6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ似)、おそろしく弁が立ち(弁護士でもある)、勇気にあふれ、機転が利く快男児。彼の人間的魅力と次から次へと迫り来る謀略をテンポよく描き、映画はそれこそ007顔負けの英雄譚に仕上がっている。なかでも圧巻の場面は、治安当局高官になりすますナワリヌイ氏の偽電話に引っかかったFSB局員が、よりによって本人に20年8月の暗殺未遂事件の裏側を明かす場面である。いまは配信で観ることができるのでまだの方には必見と言っておく。