「悪役商会」八名信夫さん89歳 能登半島地震を乗り切るも、持病のヘルニアを再手術
1人暮らしで自炊は得意
2017年には「おやじの釜めしと編みかけのセーター」、翌18年には「駄菓子屋小春」という映画を監督・脚本・主演で製作。全国の市町村の公民館などで無料上映してきた。
「なぜ映画を作ったかというと、80歳を過ぎたら、自分の歩んできた足跡を振り返るようになったんだ。オレの人生はこれで良かったのか。何かの、誰かの力になってきたのか。そういうことを考えるようになってオレにできるのは映画だ、と。それで、思いやりをテーマに、『おやじ──』では故郷の大切さや親子の絆を描き、『駄菓子屋──』では震災から立ち直る人たち、とくに子どもを撮ったんだ。コロナで行けなくなったけど、『おやじ──』は30カ所、『駄菓子屋──』は70カ所ほど回った」
製作は全てポケットマネー、何かきっかけがあったのだろうか。
「戦争の記憶だね。9歳のとき、故郷・岡山で空襲にあった。逃げる途中、近所の同級生が焼けている家から這い出してきて、体から真っ白な湯気をあげながら、『助けて』と手を伸ばしていた。だけど、オレは怖くて逃げたんだよ。なんで手を差し伸べてあげられなかったのか……。そのことがずーっと頭に残っていて、年齢が上がるにつれて、困っている人を助けたいという気持ちが大きくなってきたんだ」
前妻と約40年前に別れて以来、ずっと1人暮らしだ。
「家事は嫌じゃない。自分で買い物して、自炊してるよ。店に食べにいったとき、気に入った料理の作り方を聞いて、レパートリーを増やしてきた。3、4日に1回はステーキを100グラム食べ、大好きな味噌田楽は毎日。得意料理はチャーハン、オムライスだな」
想像するだけでも、豪快でおいしそうだ。
「飢餓海峡」「仁義なき戦い」シリーズ(東映)をきっかけに悪役として頭角を現した。
「同郷の内田吐夢監督に『飢餓海峡』で絞られた。借金取りの役で何度もダメ出しされて、画面に映らない足元まで演技を求めるんだ。役者としても作り手としても、一番勉強になったな」
83年に「悪役商会」を結成すると、映画「居酒屋ゆうれい」やNHK朝の連続テレビ小説「純情きらり」などで活躍。バラエティー番組「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)やキューサイの青汁のCMは代表作だ。
「バラエティーに出るのは、最初は恥ずかしかった。でも、出てみたら沸いて(ウケて)、悪役を演じていたときとは違う面白さがあった。キューサイのCMは26年続いた。『まずい!』のセリフはオレが考えたんだよ。あのCMに出てから、新幹線で修学旅行生と一緒になると大変! オレがグリーン車で寝てると、あいつらはグリーン券もないのにやって来て、『青汁が寝てる!』ってパチパチ写真を撮るんだからまいったよ(笑)」
芸歴66年。生き延びてきた秘訣は何なのか。
「言いたいことは言う、ってことだね!」
(取材・文=中野裕子)